『ダフリはミスか?』
師匠の正治さんはいつも、「苦節15年、108打の煩悩の数だけ打つ月いちゴルファーからの脱却には、常に『思考の脱力』を伴う常識からの転換が必要だ」と教えられてきました。
正治さんから最初にユーティリティで練習をするように言われてそればかりを練習してきたわけですが、コースに出始めてみると、3番ウッドが使いこなせればユーティリティより飛距離も出て、よりスコアがよくなる気がしてきて、3練習を始めました。ところが、そう簡単に上手く打てません。ここでも「本能的な拒否反応の壁」が立ちはだかったというわけです。
正治さんからは「3番ウッドの練習は、スタンスを大股くらいに広めにしてボールを右側に置き(体重移動が起こらないアドレス)、上から叩きつけるように手打ちし、低い球を打つように」と指示がありました。「決してボールを上げようとしないように、ダフることも必要だ」と言います。
一般にはダフることはミスだと言われていますので、本能的に「やりたくない」という拒否する感覚が働きます。ところが正治さんが言うには、「ダフリは『ダフリ、天ぷら、曲がりなし』とよく言われ、ダフルとボールは上がる。ダフろうとする意識と本能的にダフりたくないという意識のバランスが取れた時にボールは上がる」と言い、決して悪いことではないということなのです。
そして、正治さんに言われたように3番ウッドを練習していきますと、最初は低い打球だったのが、次第に上がるようになっていくのです。こうするうちにボールの位置も次第に真ん中になっていきます。上手く打てれば3番ウッドはランも出て飛距離が稼げていけます。
正治さんは言います。「トップボールはすくい打ちの結果。進歩は望めない」と。ですから、トップよりはダフる。それも上から叩いてダフることをモットーに練習していきました。正治さんは「このメカニズムを月いちゴルファーは早く理解することが大切だ」と繰り返し言いました。本能的な拒否反応を克服するには辛抱が必用です。
サム・スニードは子供の頃に斧を振って木を切っていたので、素晴らしいダウンブローが出来たそうです。
私が3番ウッドの練習を始めた判断が正しいか、間違っていたのか、直ぐにはわかりません。それは簡単に3番ウッドを習得することができなかったからですが、その一方でショートアイアンや5番ウッド、7番ウッドが徐々に楽にジャストミートできるようになってきたのです。
正治さんは私のそうした出来事について、「一部のパーツではなく、体全体で打つことができるようになり、意識ではなく感覚で打てるようになったのだろう」解説してくれました。
例えば左手で字を書くと指は硬直して右手のように自由に動きません。縦の線、横の線すら真っ直ぐには書けません。そこで体全体を使って書いてみたら少し真っ直ぐに書けるようになります。字を書く動きは子供の頃、無意識に習得した動作です。無意識にやっていることを、頭で理解して、できるようにすることが、体を自分の思うように動かすことに結びつくというわけです。
それにはいろいろなことを試してみることが重要で、できるかどうかわからないことでも、まず挑戦してみることが良い結果に繋がる可能性が高い。そのことを正治さんが作った「レッスンを受ける心得10カ条」の第3項を改めて思い出しました。
- 編集部よりの追記
ゴルフレッスンには、レッスンプロにとっては当たり前のことでも、教わる生徒にとっては当たり前に思えない「感覚では理解できない」ことが数多くあります。
作者の久富章嗣氏は、自身はボーンゴルファー(子供の時からゴルフを始め、「多い時は一日1000球」という数多くのボール打ちで、すべての動きが感覚で行えるゴルファー)なので、月いちゴルファーの悩みを本質的には理解できなかったと言います。そこでそのギャップを埋めるため、久富氏は「左打ち」に挑戦し、一年がかりで左打ちのみで100切りを達成して、大人になってから一からゴルフを始めたゴルファーの悩みをようやく少し確認できたとのことです。
彼ほどの経歴(全盛期の日大ゴルフ部でキャプテンを務める)があっても、す
べてのスイングを左で行っての100切り達成には一年かかったわけです。こ
の間に、月いちゴルファーの悩みを言葉で説明できる数々のヒントを得て、
それを「久富ゴルフレッスンドリル」という形に作り上げたのです。
(次週に続く)
文●久富章嗣 編集●島田一郎(書斎のゴルフSTAFF)
※このたび、久富さんのドリルを集めた本『月3回の練習で100を切る!久富ゴルフ・レッスンブック』の電子版がアマゾンより発売されました。オールカラーの改訂版です。『百打一郎と申します!』がよりわかりやすくなること請け合いです。