『飛距離アップ』
初コンペが無事に終了し、私はゴルフの面白さを知り、練習意欲も一段と増してきました。
師匠の正治さんは「一郎さんのレベルであれば、ショットの狙いは点でなくていい。広いエリアで考える。点でなくエリアに飛べば十分」と言います。とはいえ、そのエリアには練習してきたユーティリティでは届きません。ドライバーと3番ウッドのスプーンを練習しなければならないのです。
どちらも私にとっては難しいクラブですが、スプーンは練習でもなかなか球が上がってくれません。正治さんは「ボールを上げようとしてすくい打ちになっている」と指摘します。
正治さんは言います。
「本来、ロングアイアンやフェアウェイウッドはスコットランドの風の強いリンクスで、低いボールを打つために開発された道具。現在ではグリーンを狙うのに池やバンカーを越させるコース設計が多く、ハイボールを要求することからユーティリティが開発され、ゴルフバッグの中には5番アイアンすら入れない時代になりました。しかし、スプーンが打てるようになれば、他のクラブは楽に打てます。飛距離も稼げますし、このクラブを習得することです」
こうしたことからスプーンの練習に精を出すわけですが、なかなか打ちこなすことができません。すくい打ちにならないようにと思っても私の多いとは言えない練習量では時間がかかるのでしょう。そこで、ゴルフ雑誌やレッスン書、YouTubeなどを見て、いろいろな打ち方を試してみました。
正治さんに教えてもらったアームロールに加え、クローズドスタンスもやってみましたし、スライスやフックもトライしましたが、私のレベルではとても上手く打てるものではありません。それも数回の練習で習得出来るはずもないわけで、試行錯誤が続きました。
そんなある日、正治さんに教えてもらった「バレリーナアドレス」と「正しいマン振りドリル」を組み合わせ、大きくゆっくり振ってみたのです。決して「強く打つ」のではなくスイングを大きくすることを目的に、アームロールでボールを捕まえると、スムーズにクラブが振れ、しっかりしたボールが打てました。
次に「Xライン」でコンパクトなスイングにして、ボールを低く出して転がすように打ってみると、強いボールが出て、フルスイングよりも距離が出ました。正治さんの解説では「初心者にはフルスイングはタイミングが合わない確率が高く、パワーロス現象が生じる。力を抜いてコンパクトに打つことでミート率が上がり飛ぶのだ」とのことでした。ゴルファーは常に豪快なショットを夢見て力強いショットを望んでしまいますが、それよりもコンパクトなスイングを心掛けて打つほうが余程いいということなのです。
つまりは「飛ばそうとしないほうが飛ぶ」というわけです。まさに正治さんが言う「逆説のゴルフ」です。これを言い換えると、「打つ」のではなく「スイングする」ということになります。初心者はテレビで見たプロゴルファーの打球を追い求め満足感を得ようと強くヒットする(打つ)ことを繰り返しますが、重要なのは「スイングする」ことなのです。
正治さんが具体的な練習方法を教えてくれました。
それは「ホーガンドリル」や「ループドリル」でゆっくりと打ちながら切り替えしを行い、手を落とす動作を入れて、アームロールを入れてボールを打つという方法です。その打ち方で「ジャストミートの感覚」を身に付けながらスイングを作り上げていくのだということでした。
ゆっくりコンパクトにヘッドの重みでスイング。そうすると打球は思っていたよりも飛んでいきます。私はそのときの良いリズムを身につけたいと練習しました。打てたからといって次のテーマ、もっと先へ進むのではなく。まず「ミート率」を上げる。そして自信を付けることが重要だと言われました。
「自信はゴルフショップでは売っていない」とジャック・ニクラウスは言っているそうです。自信こそ上達に結びつく大切なもので、それを身につけることに専念しなければならないのです。
正治さんから大事なアドバイスがありました。
「振る」は空中にボールがある状態で打つことを意味し、地面にあるボールを打つゴルフは「振る」のではなく、「落とす」フィーリングが正解だと。ここがすべてのスイングに共通する重要なポイントとのことです。私がスプーンの練習に取り組んだ目的は、スプーンがユーティリティよりも飛ぶクラブであり、フルショットで振って飛距離を出すことでした。つまり、練習でユーティリティより飛ばなければミスショットと判断していたわけですが、それではなかなか満足なショットは出ないということです。
クラブを「振る」のではなく「落とす」。フルスイングではなくコンパクトスイング。そして「ジャストミート感覚」。これらによって徐々にスプーンが打てるようになってきました。
正治さんは言いました。
「初心者はすべてのクラブでフルショトが基準となり、すべてのショットでフルショットした時の最大飛距離が基準となってクラブ選択する。例えば100ヤードを打つ場合に、9番アイアンを持ってフルショットして最大飛距離を出してグリーンに乗せようとする。結果は力みを招いて失敗。それよりも1つクラブを落として8番アイアンで目一杯振るのではなくコンパクトなスイングを心掛け、力を入れずにヘッドの重みを感じてヘッドを落として打つこと。そうすれば、タイミングが良くなり、ミート率が上がり、距離感、方向性とも安定するのです」
先日のミズノオープンで優勝したジュビック・パグンサンはセルフ担ぎのゴルフのため、通常の14本ではなく11本にクラブを減らしてプレーしました。14本のクラブを駆使して争うプロのゲームでは通常は考えられないとのことですが、パクンサンは11本でコントロールショットを行って優勝したのです。ゴルフにおいてはボールをコントロールすることがいかに大切かというお手本だと正治さんは解説しました。
このことは私のような初心者こそ必要なポイントだのことです。つまり、不得意なクラブまで入れた14本はまったく必要がない。得意なクラブだけを選んで10本以下にしてプレーするほうがいいのだと。足りないクラブの飛距離はコントロールショットで補う。実はこのことがミート率を上げて正確性をアップすることであり、しいては飛距離もアップできることになるそうです。
なぜなら飛ばそうとしてマン振りのフルショットをしてミスをするよりも、コントロールショットのほうがミート率を上げて飛距離が出るとからです。私は正治さんの教えを信じて練習に精を出していきました。
次に続く
文●久富章嗣 編集●島田一郎(書斎のゴルフSTAFF)※このたび、久富さんのドリルを集めた本『月3回の練習で100を切る!久富ゴルフ・レッスンブック』の電子版がアマゾンより発売されました。オールカラーの改訂版です。『百打一郎と申します!』がよりわかりやすくなること請け合いです