百打一郎と申します! 第3ステージ第2回 

『飛距離限界説』

 練習に精を出していたある日、会社の上司で師匠の正治さんが私に話し出しました。

「ピッチングウェッジで比較的ゆったりとしたスイングをしていた初心者が、

ドライバーを手にすると、思い切り力を入れて振りますよね。それはドライバーが長いシャフトで飛ぶ構造に作られているため、自然に飛ばさなければいけないと思ってしまうからです。しかし、この刷り込まれた既成観念が『脱力』ではなく硬直をもたらしてしまい、上手く当たらなくなるわけです」

 確かにドライバーを持つと、決してピッチングウェッジのようには振りません。「思考の脱力」が必要であり、大切なのだと正治さんは言います。

「初心者レベルでは『飛距離限界説』という考えがあります。これは例えば8番アイアンで100ヤード飛んだからといって、3番ウッドのスプーンで150ヤード飛ぶとは限らないということです。こうしたことがなぜに起きるかというと、3番ウッドでは8番アイアンの距離以上、つまり100ヤード以上飛ばなければミスだという強迫観念を抱いてしまうからなのです。体に力が入り『脱力』ができずに、打球がバラバラになってしまい、思うような飛距離が出ないためです」

本来3番ウッドは8番アイアンと同じ力で打てば、ジャストミートさえできれば飛距離が遙かに出るように設計されています。つまり、ジャストミートすれば、8番アイアンより飛ぶわけです。前章で話した3番ウッドとユーティリティの飛距離の判断も同じことです。ジャストミートすれば同じ力で3Wは確実にユーティリティより飛びます。

つまり、大事なことは、飛ぶクラブだからといって飛ばそうとはしないこと。いつでもピッチングウェッジで打つくらいの気持ちで力を入れず、ゆったりと振ること。それでもクラブが飛ぶ構造になっているために自然に飛ばしてくれるということなのです。この「飛距離限界説」をしっかりと理解することです。そうすれば上達への伸び悩みも短くなり、遠回りせずに済むというわけです。

正治さんは続けます。

「そうは言っても3番ウッドは8番アイアンのようにはスムーズに振れないなと思うことでしょう。それは3番ウッドが8番アイアンよりもクラブが長く、フェースとネックの角度であるプル角度がきつくならないフラットになることで(構えたときにあまりハンドファーストにならない)、必然的にスイングで左腕のつまりが生じてしまうからなのです」

つまり、ショートアイアンよりもフェアウェイウッドはスムーズに振りにいクラブなのだということです。それが原因となってどうしても体が硬直して力んでしまうというわけです。

このことの対処法を正治さんが話してくれます。

「ショートクラブとロングクラブではスタンスを変えなければスムーズな脱力スイングはできません。結論から言えば、合理的なスタンスは、ショートクラブではクローズスタンスにし、ロングクラブはオープンスタンスにするということです。そうすればショートクラブでの引っ掛けを防ぐことができ、ロングクラブでは左腕の抜けが良くなるのです」

 正治さんのこのスタンスを実際にやってみると、確かにフェアウェイウッドが上手く振り抜けます。しかし、振れば振るほどスライスにもなってしまいます。ですので、フェアウェイウッドやドライバーではより左に打ち出すようにしました。それでもショートクラブのつもりで「脱力」してゆったり振ることができますし、ジャストミートできるので気持ちはとてもいい。練習してスライス幅を少なくしていけば良いと思いました。

 正治さんは言います。 

「スタンスについて統一した考えはプロゴルファーでもありません。すべてをスクエアスタンスにしている選手もいますし、クローズやオープンにしている人もいますし、クラブによって変える選手もいます。振りやすさや好みの弾道によって異なるのです。とはいえ、クローズとオープンの中間的な発想でスクエアスタンスから入るのが常識となっています。しかし私はその根拠は乏しいと思っています。ゴルフ理論はプロゴルファーや競技者と言った体の柔らかい、順応性のある人々が作り上げたもので、彼らはどのような状況にでも対応できるのです。その理論は体の堅くなった一郎さんのような中年の月いちゴルファーにはなんの合理性もないということです。私はこのことを突き詰めて考え、ショートクラブとロングクラブのスタンスを変えることを思いつきました。実際、それが一番リラックスして打て、ジャストミートできるものだと思っています」

 確かに大事なことは正治さんが言うことだと、私も思いました。教科書に書いてあるようにすべてのクラブでスクエアスタンスを取ってスイングしては、いつまで経ってもジャストミートができず、思ったような飛距離を得られない。「飛距離限界説」のままだったと思います。上達は完全に遠回りしたと思うのです。前に試みた「バレリーナドリル」はクローズスタンスで、腕の脱力とトップを深くし、打ち急ぎを防ぐドリルでした。そして、手首をあまり使わないスイングです。逆に、ロングクラブでのオープンスタンスは左腕のつまりを解消する方策で、手首を柔らかく使えるスイングです。

これら2つのドリルを試すうちに、そのバランスの中で、一番自分には向いているのはどのスタンスポジションなのかの答えが見えてきました。様々な試行錯誤は無駄にはなりません。必ず答えに結びついてくると確信しています。

正治さんは言います。

「ゴルフ理論には2極性があります。弾道にもフックかスライスかの二極があり、左ひざの動かし方にも二極の考えがあります。バイロン・ネルソンは『左ひざはインパクト、フォローで曲げて打つ』、一方サム・スニードは『左脚はつっかえ棒にしろ』と分かれます。どちらが正解なのでしょうか。答えは両方とも正解なのです。なぜなら彼らはトッププレーヤーで、どのようにも柔軟に対応できるからです。

初心者は、まず両方を試して、自分に向いたスイングを探し、作り上げる必要があるのです。そうした試行錯誤の練習をしないで、ただただ『真っ直ぐ遠くへの理想追求』や『もっともっと現象』、『ナイスショット願望』の繰り返しを続けてしまえば、練習のマンネリ化が始まります。このことはゴルフの本来の楽しみである、スコアアップやゲーム性よりも『真っ直ぐ遠くへ』の飛距離の快感を優先する練習場シングルや、永遠の108打プレーヤーを生んでいくことになります。

初心者向けのレッスン書の作成の困難さがここにあるのです。その人に合ったオーダーメイドスイングが要求されるのです」

正治さんが言う、その人に合ったオーダーメイドスイングとは、一般に言われている教科書スイングではないということです。何でもできるプロゴルファーの理論では、私のような体の堅くなった中年の月いちゴルファーには上達の遠回りをするしかないというわけであり、私は正治さんを言うことを信じて練習していこうと思っています。

(次週に続く)

文●久富章嗣 編集●島田一郎(書斎のゴルフSTAFF)

※編集部より

この『百打一郎物語』は、著者である久富章嗣氏が初心者に行ったチャレンジレッスンの体験から得た事柄を元に作られている小説であり、初心者向けのエッセンスを百打一郎を通して語る、まさに「初心者向けのレッスン書」なのです。 

・編集部よりの追記(第2ステージ7回の記事再掲載)

ゴルフレッスンには、レッスンプロにとっては当たり前のことでも、教わる生徒にとっては当たり前に思えない「感覚では理解できない」ことが数多くあります。

作者の久富章嗣氏は、自身はボーンゴルファー(子供の時からゴルフを始め、数多くのボール、多い時は1日1000球を打ち、すべての動きが感覚で行えるゴルファー)なので、月いちゴルファーの悩みを本質的により深く理解し、感覚ではなく言葉で伝えたいと、そのギャップを埋めるため、「左打ち」に挑戦しました。こうして、一からゴルフを始めたゴルファーの悩みを1年がかりで、左打ちのみで100切りを達成することで、ようやく少し確認できたとのことです。

彼ほどの経歴(全盛期の日大ゴルフ部でキャプテンを務める)をもってしても、すべてのスイングを左で行い、100切りを達成するのに1年かかったとのことです。この間に、月いちゴルファーの悩みを言葉で説明できる数々のヒントを得て、それを『久富ゴルフレッスンドリル』という形に作り上げました。

  • 久富氏はこの経験を基にオーダーメイドの個人レッスンも行っています。
  • お問い合わせ 090-3097-2674               
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