『スライスにチャレンジ』
師匠の正治さんのお陰で、4回目のラウンドで最初の目標だったハーフ50を切ることができ、練習の成果が結果として表れました。
とはいえ、練習に正解はあるのかというと、それは今日の答えであり、明日は異なります。同じことを練習しても感覚が変わるからです。ゴルフの難しさです。
それ故に、その都度、様々な矯正を行います。そうすることで「思考の硬直」を和らげることができ、その結果筋肉がほぐれ、柔らかいスイングが可能になってきます。それが日々行う練習の目的です。
初期レベルのティショットの距離は120ヤードでしたが、150ヤードまで伸びてきました。私の練習の球数では飛距離を伸ばすのは至難の業ですが、150ヤードも160ヤードも変わらないだろうと思ってクラブを振りにいってしまいます。
しかし、この10ヤードはたった10ヤードではありません。少しずつ確実に距離を伸ばすことなのです。しかし私はその違いに気づかず、一気に200ヤードを求めてしまいます。というのも思い切り振って上手く当たれば体力的には200ヤードも出せるからです。しかし、そのショットはと言えばナイスショットよりも遙かにミスショットのほうが多いのです。つまり、毎回同じように150ヤードを飛ばせるようになって、10ヤードずつ伸ばすことなのです。
確かに飛距離が出ればミドルホールで3オンの可能性が高くなります。しかし、最大に飛ばそうと思えば、脱力スイングを身に付けることはできません。スイングのメカニズムを理解することが大事だと正治さんは言います。それには次のような練習を行う必要があるとのことです。
「コンスタントにナイスショットが打てるリズムを習得すること。また、フルスイングだけでなく、クオータースイングを試していくことが大事だ」
クオータースイングならばナイスショットの確率はかなり上がります。フルスイングではナイスショットは少なく、ボールは散らばります。つまり、クオータースイングでナイスショットを打てる確信を持てるように練習することが大切だというわけです。
しかし、クオータースイングでは満足感が少なく、練習が面白くありません。上手く打ててもすっきりしないのです。もっと飛ばしたいという気持ちが執着して、なかなかこの練習に納得がいかないわけです。
とはいえ、クオータースイングを行ってからのフルスイングでは、ユーティリティや7番アイアン、9番アイアンではスムーズにスイングができ、ボールの弾道も高くなって、この練習の成果が表れてきました。
その一方で、ドライバーや3番ウッドならば、ユーティリティよりも飛んで当たり前だとの思いが先行して、なかなか脱力スイングができません。これは正治さんが言うところの「限界飛距離の壁」というものです。「限界飛距離」というのは、クラブが持つ限界の飛距離です。
つまり、普通に考えれば、ユーティリティよりもドライバーや3番ウッドは飛ぶはずなのだからと思い込み、自ら飛ばそうとしてしまうのです。自分から限界を超えようとするわけです。しかし、本当はいつも通りに振って、クラブが飛ばしてくれるのです。普通に振ればいいのに、それがなかなかできないわけです。
では、ドライバーや3番ウッドを持って、脱力スイングを習得するにはどうしたら良いのでしょうか?
正治さんが教えてくれた練習法は以下のことです。
「左半身と右半身の動きを理解するために、左手1本の片手素振りを取り入れる。ゴルフスイングは両腕で行うので、右半身と左半身の動きが連動できず、体に『力み』が生じる。自分勝手にスムーズなスイングができなくなると思ってしまうのです」
ということから、左手1本の素振りを続けてみました。上級者が行う左腕主導のスイングになるというわけです。その理由を正治さんが話してくれました。
「これまで一郎さんには、初心者にとって大きなミスにつながるスライスやシャンクが出ないように、右腕主導の『引っ掛けショット』を行うように指導してきた。最初はそれが功を奏していたわけだが、練習を重ねていくうちに、右手を使いすぎる『オーバードウ現象』が起こり、左に飛び出すチーピンが時々出るようになってしまった。チーピンが出だしたら、次の段階に移る必要がある。それが左主導のスイングなのです」
こうして左手1本の素振りを繰り返して、両腕でスイングしてみました。すると右手に力が入らないので、脱力スイングが自然にできるのです。チーピンが少なくなり、大きなスライスになることもなかったのです。
正治さんが言います。
「このまま左手主導でスライスを練習すること。これまで右腕主導で『引っ掛けショット』を打ってきたから、上手く調和が取れるはず。スライスを打とうとしても極端なスライスになることはなく、ボールの弾道も高くなり、スイングリズムも安定するはずだ」
やってみるとまさに正治さんが言ったような、いい感じのスイングとなり、リズムよくショットが打てるようになりました。
私のレベルではフックとスライスを打つ練習をして、常にスイングを調整する必要があるそうです。つまり右腕主導と左腕主導のスイングの調和を取るということです。そして、常に体を柔軟に動かし、脳に「思考の脱力」を与えることで、スイングの脱力が可能になるということなのです。
これまでスライスはよくないショットという認識が私にはありました。しかしその考えを変えていくことで、次のステップに進めるように感じました。
シャンクやスライスに対する体の無意識な抵抗はありましたが、ジャストミートしたボールも増えてきたので、5回目のラウンドは球筋をスライスに変えてチャレンジすることにしました。
前回の4回目のラウンドは48・54の102回でした。今回はできれば100を切りたいと思いました。こうなるとボギーオンを目指したくなります。しかし、思い直して今回も「PAR数字オン」のダボオンゴルフを実戦することにしました。球筋をスライスに変えたらどうなるかを知りたかったからです。
やってみたところ、1番からショットが乱れました。5オン2パットのスタートです。前回の右腕主導の『引っ掛けショット』が頭に残っているからでしょうか? スライスをやろうとしてもタイミングが合わないのです。2番では10という大叩きになりました。しかし球筋を変えたのだし、これが今の自分の実力だと言い聞かせました。するとパニックにはならず、次の3番からはショットがよくなり、2つのショートホールでワンオンすることができました。
もちろん、グリーンに乗せようとはせず手前からの意識で打ったショットです。スコアは10という大叩きをしたにもかかわらず、前半のスコアを54で止めることができました。
しかし、午後のハーフでは50を切りたいと思ってしまったのでしょうか。最初からトリプルボギーを叩き、それが3ホールも続きました。「PAR数字オン」でよいと思ってはいても、飛ばそうという欲が出てしまったのです。まだダボで止められるショットに徹底できず、飛ばしたいことで体が硬直しまったのです。
コースではどうしても感情が優先して飛ばしたい意識になり、スイング無視の動きになってしまうのです。結果、トリプルボギーや大叩きのスコアとなってしまいました。
正治さんからは次のように言われました。
「初心者はたった1つの球筋に固執してはいけない。ショットの方向が安定しないのは当たり前のこと。だったら、視野を狭めることなく、逆に広げて、その範囲内に飛べばナイスショットだと思うようにする。つまり、安定しないことを愉しむことが大切なのです。距離を求めてOBや林といった致命的なミスは犯さない。左手主導の脱力したスイングで『PAR数字オン』を意識してプレーすること。練習ではクオータースイングで脱力することを覚えることなのです」
確かにその通りだと思います。球筋をスライスにして「PAR数字オン」と思いながらも、100を切りたい、そのためには飛ばしたいという欲求が後半に消えなかったと思います。大いに反省するところです。この日の5回目のラウンドを終え、左腕主導のクオータースイングで練習していこうと改めて思ったのです。
(次週に続く)
文:久富章嗣(ゴルフ向学研究所所長) 編集:島田一郎(書斎のゴルフSTAFF)※このたび、久富さんのドリルを集めた本『月3回の練習で100を切る!久富ゴルフ・レッスンブック』の電子版がアマゾンより発売されました。オールカラーの改訂版です。『百打一郎と申します!』がよりわかりやすくなること請け合いです。