『本番に強くなる!アヤコ流』
岡本綾子 著 ゴルフダイジェスト社
「あのゆったりしたスイングをまねるため、ビデオをすり切れるまで見た」という言葉を聞いたことがあります。「なんで、あれで飛ぶんだろう!」と。しかし、わたしはそのスイングを見てもまねることはできませんでした。
そのスイングとは岡本綾子さんのゆったりとしたスイングです。もしこの本『本番に強くなる!アヤコ流』が30年以上前にあったら、「自分のゴルフは〝よく″変わっていたかもしれない」と思わされます。この本には岡本綾子さんの素晴らしい言葉があふれています。

≪わたしは若いころから「インパクトは右ひざの前」で迎える感覚を持って振っていました。打つ時はアドレス時の状態に戻るといいますが、実際のインパクトでは腰はすでに回転して前方を向いているはず。その意味で、インパクトは右ひざの前のイメージのほうが近い感覚だと思います。(25頁)≫
ゴルフでは自分のイメージと実際が異なることが多く、それが上達を遅らせているとも言えるでしょう。岡本プロは、こう強調し注意を促しています。
≪ゴルフレッスンではさまざまな専門用語が使われますが、本来感覚的にしか伝えられないことを、何とか言葉に置き換えようと苦心してひねり出された用語が多いもの。言葉にしたがうより、練習の中で自分自身の感覚をつかみ取れるよう心がけてほしいものです。(25頁)≫
ふだん見慣れた“リンゴ”でも、説明が足りなければ、相手は赤か緑、あるいは黄色っぽいものを思い浮かべるかもしれません。伝達のむずかしさは日常的にあります。そのため、動きを伴うゴルフを表現するのは至難といえるでしょう。岡本プロは、そのことを理解し、相手に伝わり分かりやすい表現に努めているのです。
≪スウィングは一つ。ドライバーもアイアンも打ち方は同じです。円運動するヘッドのボールに伝えるパワーが最大になるのは、インパクトからヘッドを振り抜いた30~40センチの幅になります。止まっているボールに最大限の力を伝えるには、スウィング軌道が最下点を通る寸前にインパクトを迎えるようにする。それが理想的なゴルフスウィングであるということを、まず頭に置いてください。(43頁)≫
この物理学的な法則による説明を念頭に置きながら、ドライバーの打撃解析が興味を引きます。
≪最大限の飛距離が期待されるドライバーは、通常ティアップして行うティショットで使用されます。ボールは地面から浮いているのですから、ドライバーのヘッドはインパクトでボールをとらえたあと、スウィングの最下点を通ってもなお抵抗のない空中を進み、まったくロスすることなく、ボールにパワーを与えることができるわけです。要するに、ドライバーもアイアンも打とうとするボールがティアップしてあるかどうかの違いだけであって、打ち方は同じ。スウィングは一つなのです。(44頁)≫
岡本プロが指摘するように、言葉での説明に限界があるでしょうが、「上昇に転じた軌道でボールをヒットすると最大の飛距離が生まれる」と理解する向きもあったようです。この場合は、「ティアップしたボールの手前を最下点と見立てる」ことになります。
≪「アッパーブロー」で打つというのは、これとは逆の言い方ですが、実際にクラブが最下点を過ぎ、クラブが上向きに動いている状態でインパクトを迎えるように打っているわけではありません。それではボールコントロールができない上、パワーロスも大きいですから。(46頁)≫
なるほど、「そういう理屈だったのか」と合点がいきます。ティアップしないでドライバーで打つ〝ジカドラ″では、上昇軌道に移ってからではトップしてしまいそうです。そして、次にまとめです。
≪ダウンブロー、アッパーブローというのは、まさに比喩的な表現であって、スウィングの傾斜角度やボールの位置のほんのわずかな違いを表した言葉なのだと思います。(46頁)≫
言葉からの感覚の違いは、パターについてもふれています。
≪たまにこのインパクトの感覚を「ボールをヒットする」という表現を使う人がいますが、わたしはこの言葉に、少し違和感を覚えます。ドライバーやアイアンでショットする場合は、もちろんボールをヒットすると言いますが、実際、英語を母国語にしているプレーヤーたちが、グリーン上で「ヒットする」と表現するのを聞いたことはないからです。(74頁)≫
1987年に日本人初、外国人初のツアー賞金女王となった経験が、英語表現でもいかんなく発揮されています。
≪これはゴルフの感覚というよりは、英語における感覚表現の問題なのでしょう。パッティングはゴルフ用語ですが、もとである英単語の〝Putt″は、板や手のひらで「軽く叩く」動作で、明らかに〝Hit″(打つ、衝突する、該当するなど)とは違う意味を指しています。パッティングが打つ動作を意味するのであれば、わざわざその用具をパターと呼ばず、ヒッターと名づけたのではないでしょうか(笑)。(75頁)≫
岡本プロは、≪感覚的な表現というのは、ほんとうに難しいものだと感じています≫と付け加え、言葉の微妙な感覚による違いを言い当ててくれました。そして今度は、「言葉の暗示」につながる事例を示してくれます。
≪ある人が、同じ組の調子のいいプレーヤーに対して、プレッシャーをかけてくることがあります。たとえば、1メートルほどのシビアなパーパットを何ホールか続けて入れたとします。3ホールくらいあとに、「ほんとパーパットが上手いな!」とおだてられ、次のホールでまた1メートルほどのパーパットが残ったりします。やはり人間ですからちょっと意識してしまい、普段と違うストロークになりうっかり外してしまう・・。そのとき「上手いなー」と言った人の方を見ると、「してやったり」とばかり、ニヤーッと笑いかけられた、という話を聞いたことがあります。こういうのを「ホメ殺し」というのかもしれません。(200頁)≫
こういったことはプロの世界でもあるようです。アマチュアのなかでは、〝ほめ言葉″の「スゴいですね」とか「よく飛びましたね」などは気にせずにつかっているものです。もし、このあとに「次のショットも楽しみです」とか「彼のショット、参考になるよ」などと言ったら、相手に緊張感を生む効果があるでしょう。お互いに気をつけないと、楽しいゴルフの一日が台なしになりかねません。
それでアヤコ流はどうするかです。
≪同じ組のプレーヤーに対して、どう接すればいいのかといえば、マナーを守って一対一の対等な人間関係を保つ、普通に対処する以外にありません。相手がいいショットを打てば率直に「グッドショット」と言えばいいし、ミスすれば黙って見守る。ことさら「ありゃあ、OBですね!」などと、わかりきった事実を残念そうに繰り返さない。当然です。(201~202頁)≫
スポーツの中でもゴルフはことさら人の個性がハッキリと出て楽しいものです。ただし、言葉の駆け引きは程ほどに、ということです。***
文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)
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