ゴルフは本でうまくなるか〈6〉2022年6月20日

『ゴルフ場の法律に強くなる!』

西村國彦 著 ゴルフダイジェスト社

ゴルフコースでの打球事故は、自分には起こらないと信じがちですが、発生すれば深刻です。この本『ゴルフ場の法律に強くなる!』では、これらの事故や各事象を裁判事例により分かりやすく説明しています。全体として、ゴルファー向けというより、ゴルフ場の日常の安全管理やマネジメント全般に役立つような構成です。

なお、ゴルフ場とその利用者であるゴルファーとの取り決めは、「ゴルフ場約款(やっかん)又は規約」に示されており、ウェブサイトでも検索できます。約款の基本はいずれも似ていて、フロントで受付票に氏名、連絡先などを明記し、申告事項にレ点を入れて施設利用契約が成立したとみなされます。

さて、この本の冒頭は、打球事故です。身近に起こり得る典型的な三つの裁判事例を順に対比します。

Wカントリークラブ事件(東京地裁・昭和60529日判決)東6番ホールで第2打を打ったYの球は大きくフックし、隣接する東5番ホールのティグラウンドにいたXを直撃し、ケガをさせたという事例です。(11頁)》

なお、ティグラウンドは2019年のルール改定で「ティーイングエリア」となりました。さらに続きます。

《裁判所は、①Yが第1打および第2打を打ったいずれの地点からも高低差および樹林帯があるため、Xのいた東5番ティグラウンドを見通すことはできない、また、仮に東5番ティグラウンドを認識する可能性があったとしても、競技者が東6番と5番との高低差(東5番が全体として高くなっている)、および樹林帯を越えて、打球がそこまで届くと通常予想することはできないことから、Yには過失はないとしました。(1112頁)》

ここでは、「フォア」の発声について触れてはいませんが、隣がコースであるからことは分かっているでしょうから、大声を張り上げておくのが安全マナーとなります。次は似た状況ですが、打った方に過失あったとされた事例です。

Mカントリークラブ事件(東京地裁・平成元年330日判決)4番ホールは、真ん中あたりで左に曲がっているドッグレッグホールで、ちょうどそのドッグレッグしている付近で5番ホールに接しています。4番ホールでYがティショットしたところ、打球が5番ホールのフェアウエイでプレー中のXの腕に当たりケガをさせてしまったケースです。(12頁)》

こういったコース設定はかなり見受けるもので、緊張を強いられるため、ミスショットになりやすい場所です。

4番ホールと5番ホールが接している境には樹木が植えられていたのですが、裁判所は、そこに間があり、見通すことが可能であったとしました。そして、Yには5番ホールの安全を確認する義務があり、これを怠ったとしてYの過失を認めました。(12頁)》

実に重い課題です。裁判事例を少しでも意識することで、安全マナーは向上すると期待したいものです。これに関わるゴルフ場利用約款(三重県ゴルフ場暴力防犯対策協議会 ジャパンクラシックカントリー倶楽部 2017年3月1日改定、「以下、約款」)では、次のように記されています。

《約款第16条 隣接ホールへの打込み:隣接ホールへの打込みは特に危険ですから、プレーヤーは自己の飛距離、飛行方向について適切に判断し慎重に打球して下さい。隣接ホールに打ち込んだ場合には、そのホールのプレーヤーに合図し邪魔にならないよう打球するとともに、自己の同伴プレーヤーにも充分注意し打球して下さい。》

さて、三番目はキャディが介在した状況です。

Kカントリークラブ事件(名古屋高裁・昭和59717日判決)コース途中にブラインド部分があるホールで、キャディの同意を得てティショットしたYの球がブラインド内にいた先行組のXに当たった事例です。(13頁)》

ここでYは、ティグラウンドの右斜め前方まで歩いて行けば、すべてを見通すことができたのに、自分でも確認せず、キャディにも確認させなかったという状況です。

《単にティグラウンドの上に立っていただけで、安全確認措置をとっていないキャディの形だけの同意を求めて、Yは第1打を打ったことから、裁判所はショットしたプレーヤーYの責任を認めました。(13頁)》

普通なら、キャディのOKは絶対と思えるのですが、次に続きます。

《「キャディは、日本ゴルフ協会の規則にいう単なる競技者の援助者にとどまらず、ゴルフ場経営者の従業員として、競技に伴う危険を未然に防止し、競技者の安全を保持すべき注意義務があること」「ブラインド部分に残っている他の競技者の存在が予想できる場合、Yから第1打開始の可否につき意見を求められたキャディは、自らティグラウンドを離れて先行の競技者の動静を確認するか、あるいは先行の競技者全員が安全な地域に立去るのに必要な時間の余裕をみたうえで、同意を与えるべきであった」として、キャディにも過失があるとしました。(1314頁)》

裁判事例では、原因と結果に関連することが克明に列記されていきます。そして結論です。

Xは、損害の金額をYまたはCに請求できますが(連帯責任)、裁判所は直接の加害行為者Yとゴルフ場事業会社Cとの責任の内部的な負担割合は、14と認定しました。》

このような場面を想定し、ゴルフ場は次を免責条項としています。しかし、裁判となれば、一方的な責任判定にはならないケースが多いようです。

《約款第13条 飛距離の確認:先行組に対しては、後続組の打者はキャディのアドバイス如何にかかわらず、自己の飛距離を自分で判断して先行組に打ち込まないよう打球して下さい。》

さて、4番目は、ティグランドでキャディを負傷させた事例です。

《プレーヤーはゴルフ場に対して安全配慮義務を負うのでしょうか。プレーヤーに、ゴルフ場に対する安全配慮義務違反による契約責任を認めた判例は見あたりません。しかし、ティグラウンドで素振りをした際、付近にいたキャディの目にクラブを当て負傷させた事故について、プレーヤーの不法行為責任を認めた判例があります。(神戸地裁・平成5525日)(71頁)》

この判例は、次のようにつながります。

《プレーヤーは素振りをする際に、人がいないことを十分に確認すべき注意義務がある。ティグラウンドは、キャディ等の立入る場所であるから、ゴルフ場もプレーヤーの素振り練習を禁止する立看板を設置して注意義務を喚起している。プレーヤーは、素振りをするとき、近くにキャディ等がいて、キャディ等がティグラウンド周辺を動き回ることがあることを十分予見していた。(7172頁)》

スポーツ全般の安全と好成績のために大事な〝予見〟がキーワードとなる次の判決となっています。

《プレーヤーは素振りをしてクラブが当たる距離にキャディがいることを予見し得たので、素振りを中止すべきであった。しかし、プレーヤーは注意義務を怠り、素振り練習を中止せず、十分に周囲の安全を確認しないまま素振りを行った過失により、事故を発生させたということができる(72頁)》

《約款第12 素振り:素振りは、前後左右を注意し、ティマーク内の打席又は特に指定された場所以外では避けて下さい。プレーヤーはみだりにティイングエリアに立ち入らないで下さい。》

以上の4事例を防止するには、他の組も含めお互いの安全に気を付けることです。そのため、ミスショットでは同伴者もそろって大声を出すと声は伝わりやすくなります。打った本人は、打った瞬間、「いけない」との思いが先だって、声出しが遅れがちになりやすいものです。

そして、素振りなどで危なそうな状況に気づいたら、声がけすることです。気後れしがちですが、ていねいに伝える気持ちがあれば大丈夫でしょう。

ゴルフは安全第一で健康ライフを続けてほしいものです。***

文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)

新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)

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