『小娘たちに飛距離で負けないための授業』八木一正 著 ゴルフダイジェスト新書(2006年)
アマチュアゴルファーと自称するスポーツ力学の研究者である著者は、「ラクしてもっと飛ばす方法はないものか」と考え続けたそうです。
ゴルフ物理学の理論から導き出された結論が、写真を含む56のシンプルな図解で説明されています。これらを実践すれば、小娘たちに負けないということですが、その〝小娘〟にも役立つはずです。
《とにかく、誰だって飛ばしたい。小娘に負けたくない。時間のないサラリーマンだってもっと飛ばしたい。なのに「一流選手の真似をしていても、ちっとも変わらない」「こうすれば飛ぶという理屈はたくさんあるが、なぜそうするのかサッパリわからん」「プロのようにウェートトレーニングしたり、練習する時間もない」・・・と怒り心頭の方が多いのではないでしょうか。(11頁)》
確かにそのとおりで、期待を持って次に進みます。
《この本は、そういう皆さんのための科学的ゴルフ上達の実践書です。この「スーパージャイロ打法」は、巷の科学的根拠のない「ジャイロ打法」とは、全く異なります。この本では、特別な才能のない、ヘッドスピード40m/s程度の方でも、250ヤードの飛ばし屋になれる方法を紹介します。(11頁)》
2006年出版ですから、その頃全盛期の宮里藍選手が主役のように登場します。この本のスーパージャイロ打法を試験的に体感するには、次のような説明があります。

棒にトイレットペーパーの芯を差し込みスウィングするものです。要領は、ダウンスウィングからフォローへと芯が落ちず、振り切る前に芯が打球方向に放物線を描いて飛び出すというものです。
これをうまくやるために、モノがどう落下するか、物理的にタメはどうできるのかを理解し、実践につながるヒントが順を追って出てきます。
《このエネルギーをボールに伝えるコツは、ダウンスウィングで腕を「ゆっくり下ろすこと」です。ボールなどの物をトップの高さに持ち上げて、そこから手をパッと離して落としてみて下さい。意外なほどゆっくり落下することに気づくでしょう。そう、物が落ちるスピードはそのくらいゆっくりなのです。(92頁)》
そう言われてみたら、試すが第一です。我が書斎のフロアーに座布団をひいて、手元にあった乾電池と丸めた紙クズを同時に落としてみます。抵抗の多い紙クズは少し遅れるも、ほぼ同様に落下します。ゆったりと落ちる感覚がつかめました。
《従って、トップからはゆっくり切り返し、ダウンスウィングすると、位置エネルギーを使えて飛距離がアップするのです。逆に、物が落ちるスピードよりも速く下ろすと、腕の位置エネルギーを効率よく使えないことになります。(92頁)》
ここでアニカ・ソレンスタムや岡本綾子がゆっくり振っていることを強調しています。アメリカのツアーだけで72勝というアニカのスイングが‶素振りのようだった‴ことが思い起こされます。そして、次の言葉で締めくくられます。
《ゆっくり振った方が重力により腕が落ちるエネルギーが使えるからです。特に腕力のない女性やシニアは、腕で素早く下ろすよりも腕の落下を利用した方が、ずっと効率よく飛ばせます。(92頁)》
これを実践的な言葉で次にまとめています。
《「ゆっくりバックスイングして素早く下ろす」というセオリーは間違いで、むしろ「素早く上げて、ゆっくり下ろす」方が、理に適っているといえます。(92頁)》
このセオリーが次の項《慣性モーメント「タメ」で飛ばす》で具体性な説明が続きます。
《ゴルフセオリーの中でよく使われる言葉が「タメ」。「ダウンでタメて飛ばす」など、しばしばプロのレッスンに登場します。しかし、その意味は分かりづらく、しかも感覚的。いったい何を「タメ」るのか。タメると、なぜ飛ぶのか。(100頁)》
フィギュアスケートでは、ジャンプ直後に手足を体に素早く引き寄せるというスピン回転理論の図解説明(102頁)に続き、回転椅子に座る状況での説明に移ります。
《まずイスに座ったら手足を広げた状態で他の人に回してもらいましょう。その状態から、手足をたたんで回転軸に近づけてみて下さい。どうでしょう。ビックリするくらい回転の速さが増したはずです。手足を広げていた時の5倍ぐらい速度が増します。再び伸ばすと、今度は急に減速します。(101ー103頁)》
《この手足を広げた状態、つまり「周りにくさの目安」のことを物理学では「慣性モーメント」と呼んでいます。(103頁)》
《手足を広げて、質量が体の中心、つまり回転軸から離れて回りにくくなった状態を「慣性モーメントが大きい」(回りにくい)と言います。(103頁)》
似たような説明が続きますが、次に「タメ」の物理的で微妙な説明が成されます。
《ゴルフのダウンスイングで回転スピードを上げるためには、腕やクラブをできるだけ回転軸に近づけ、慣性モーメントを小さくしたほうがいいわけで、この回りやすい(慣性モーメントが小さい)状態が俗に言う「タメ」です。(103頁)》
慣性モーメントとは、ゴルフクラブの性能表示で見かけるものでした。こういう説明は、なるほど感が高まります。
《動きとしては、慣性モーメントを最小にして回り安く、振りやすくするために、ダウンスウィングで右腕を折り曲げ、さらに右手首のコックが解けないようにギリギリまで我慢します。(105頁)》
《つまり、可能な限りクラブを回転の中心である体に近づけ、「回りやすさ」を最大にして、インパクトに向けて助走するのです。そうしないと素早くクラブを振ることができないばかりか、回転速度を上げて遠心力が最大の状態でインパクトを迎えられません。(105頁)》
体がまだこわばっている朝一のショットでは、インパクト前に体が止まって腕が伸びきってしまいがちです。それで、左手だけがかえってしまい、その結果、左に引っかけてしまうことがあります。そのため、右肩も止めることなく、回り続けているというイメージが必要なのかもしれません。このとき、右足のヒザが左足に近づいて回転を促しています。体に想定される軸を中心に回転しながらボールを打って、フォローで手が自然に伸びてゆくような感じといえそうです。
《実際にボールを打つ瞬間は(慣性モーメントを最大にして)腕をほぼ伸ばさなければならないので、はじめからたたむ必要はないのでは、と考える方がいても不思議ではありません。しかし、それは思い違い(誤概念)です。回りやすさが最大になるように意識してスイングしなくては、インパクトまでにヘッドを加速できないのです。(105-106頁)》
この箇所は微妙な切り変わりの動作となります。ボールを打つ意識があるので、どうしても右ヒジを早く伸ばしてしまいがちです。練習場で試すことですが、感覚としては、右ヒジは曲げたままインパクトを迎えるということになります。「少し曲げたまま」ともいえます。それで、力が抜けていれば、自然と腕が伸びるということです。プロの連続写真では、確かに少し曲がったままでインパクトを迎えています。
《いずれにしろ科学的には「タメ」とは「慣性モーメントが最小の状態」のことです。ですから、体の近くをヘッドが動くというのも「タメ」の一種です。これは、ヘッドが体から離れるフラットなスウィングほど振りにくくなり、ヘッドが体の近くを通るアップライトなスウィングの方が振りやすく、飛距離も伸びるということです。」(106頁)》
以上の「タメ」の説明で、「腕は縮めた方が早く回転する」ことを頭にインプットできたでしょうか。すぐにはできなくとも、この〝秘訣〟が身に付けば、飛距離アップした快感ゴルフにつながるかもしれません。***
文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)
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