ゴルフは本でうまくなるか〈8〉2022年7月18日

『すべての不調は口から始まる』江上一郎(歯学博士)著 集英社新書

 国際レベルの競技会で優れた成績を残す選手は、歯のメンテナンスがよくできているといわれます。歯を食いしばって頑張ろうにも、むし歯が痛ければ、どうしようもありません。納得です。

 さて、この本『すべての不調は口から始まる』は、〝ゴルフの不調は口から始まる〟と読み替えて実践すると、ゴルフ快調=人生快調につながるかもしれません。

 ゴルフで疲れて歯の手入れが面倒なときでも、簡単にケアできる方法が紹介されています。大事な歯と歯ぐきと口の中の手入れは、体調向上の大元であることが分かるはずです。

セントアンドリュース

《ヒトの生物としてのすべての行いは口から始まる ー 口の中は大きな「腔(くう)になっていて、この腔のありようこそが、全身の健康を決定するのだと私は考えています。」(15頁)》

 口の中は「口腔(こうくう)」といわれ、大事なことを再認識しなければならず、深刻な意味あいがあることを次の言葉で感じます。

《歯に食べかすがはさまったまま放置していると、死にいたる病を背負いかねません。そんなおおげさな、と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、これは歯学的事実なのです。(15頁)》

 それでは、口腔を健康に保つために重要な働きをするのは何だと思いますか、と問いかけです。

《それは、「唾液」です。唾液は、歯、歯ぐき、舌、のど、粘膜の活動を有機的に結びつけ、われわれの想像を大きく超える有用な作用をもって24時間働いています。(15頁)》

《口腔全体が「よい状態」にあると、外界から攻撃をしかけてくる細菌やウイルスに打ち勝つことができます。そのよい状態をつくるのが唾液の作用なのです。(15頁)》

 以上の前置きに続き、医学的根拠にもとづいたケアの方法、唾液と臓器の働き、全身の健康との関連性が説明されます。

《口の中は通常、中性に近い弱酸性ですが、食後は歯がつくり出した酸で酸性に傾きます。この酸が悪さを開始するのです。(22頁)》

《このとき、唾液中のミネラルなどの多様な成分が酸に抵抗します。食事中から食後20~40分間ほどは良質な唾液がたくさん分泌されます。その成分が酸を中和し、口の中を中性に戻します。(24頁)》

《食事をすると、エナメル質からリン酸カルシウムの結晶が溶け出す脱灰が起こり、その直後から、唾液は中和作用によってリン酸カルシウムを歯に再び沈着させるように働くわけです。これを歯の「再石灰化」と呼び、唾液が初期むし歯を修復する作用を指します。(24頁)》

《口の中が健康な状態であれば、こうして食後約40分~1時間で、歯の表面はもとのように修復されます。エナメル質は、一度破損すると自らは再生しないため、再石灰化による修復作用はむし歯を予防するにあたって最重要ポイントとなります。(24頁)》

 次に理解したいことは、「唾液の多用な働き」についてです。

《唾液には口の中を洗う「洗浄作用」と、乾燥から守る「保湿作用」もあります。口の中が乾くと、のどが痛み、腫れ、風邪をひく人も多いでしょう。それはつまり、日ごろは唾液がヒトの病原菌となる細菌やウイルスを口の中に寄せつけないように、また体内に侵入させないように口の中を「保潤」にさせていることにほかなりません。同時に唾液は、抗菌、殺菌の役割をも果たしています。(27ー28頁)》

 このように重要な働きがある唾液も加齢、疲労、ストレス、それにゴルフにつきものの緊張や興奮で減ることがあるようです。そのために、「口腔トレ」と称される口と周辺のトレーニングが8つ紹介されています。その3つは次のとおりです。

《唾液腺マッサージ 耳下腺(じかせん)マッサージは耳たぶの少し前、顎下腺(がつかせん)マッサージはあご骨の内側のやわらかい部分、舌下腺(ぜつかせん)マッサージは舌のつけ根の下、あごの先の内側(68頁)》。表面を優しくソフトに上からなで下ろすような方法とのことです。

《口呼吸予防法〈あいうべ体操〉「あー」「いー」「うー」「ベー」と口を大きく動かし、「ベー」のときには舌を前方に強めに押し出す。(71頁)》

《唾液の分泌を促す〈下回し体操〉基本バージョン まず、舌の先をできるだけ外へ出し、次に、その舌を左に右にと大きく動かす。(中略)さらに、舌先で唇をなめるように右回し1周→左回し1周。(76頁)》

 これには〈舌回し体操〉人前バージョンがあって、口を閉じて舌の先で歯ぐきをなぞる方法が、口の中の乾燥予防のほかに歯磨きができないときの活用法として紹介されています。

《パソコンやスマホを操作する時間が長い場合、必然的に下を向きっぱなしになります。無意識に頬や口元の筋肉、顎下線と舌下線が圧迫されて唾液の分泌量が減り、のどの筋肉が硬く縮んで下がり、舌の位置がずれ、歯を噛みしめていることがあります。操作に疲れたり、はっと気づいたりしたときには、口腔トレを少しの時間でも行ってください。(66ー67頁)》

 そして、笑いの効果です。笑うと唾液の分泌が促され、口の中の環境が改善されるようです。

《面白いことがなくても、「笑うという運動」をすると免疫力や認知機能がアップする、ストレスが解消されるとも報告されています。わっはっはっはと笑う運動をすると、表情筋を大きく使うため、口腔トレとして有効だろうと思われます。(171頁)》

 次は、歯と歯ぐきのメンテナンスの手順です。

《歯間とブラックトライアングル(歯と歯ぐきの境目)は、歯間ブラシ、デンタルフロス、糸ようじを使い分ける。実は歯磨き法としてもっとも重要なのはこれです。歯垢がたまりやい部分を磨くことができるからです。中でも歯間をきれいに清掃できるのはデンタルフロスです。(131頁)》

 かつて、「むし歯になったら歯医者に行く」ものと考えられていました。現在は、日々の手入れでの見落とし箇所を見つけてくれるのが歯医者です。今万全だと思っても、「歯のチェックお願いします」で予約をとることをお勧めします。

《歯の並びかたや形は複雑です。自分で歯のすみずみまで確認することは不可能なので、痛みがない、あるいは軽いうちは自らむし歯を見つけることは難しいのです。異変に気づいたらなるべく早く、気づかなくても3カ月に一度は定期検診を受けましょう。現実的に大人のむし歯は、歯科での定期検診のときに発見されることがほとんどです。(101頁)》

 余談ですが、ゴルフクラブのキャビティアイアンのキャビティ(cavity)はへこんだ面やむし歯で穴が空いた状態を意味します。

 そして、ゴルフと歯磨きで大事な関連があります。《歯を磨く力はあくまでソフトに ブラッシングの圧は100~200gで、手のひらをそっと押してみて毛先がゆがまない程度が適正です。(127頁)》

 キッチン用のはかりで確認すると、100gは触れる程度200gでもわずかに力が入る程度です。ゴルフスウィングでムチのように弾く感覚に似ています。腕のヒジは体に近づけて締めるのは、ゴルフに通じる動きです。歯ブラシの毛先が2週間以内に広がる場合は、力の入れすぎと考えられるとあります。

 すべての不調は口から始まる、が転じて、<すべての快調は口から始まる>が実感できるようになれば、ゴルフも体調も万全になるかもしれません。***

文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)

新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)

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