『ドライバーの飛ばし方がわかる本』

吉田 洋一郎 著 実業之日本社 (ワッグルゴルフブック)(2019年)刊
“書斎のゴルフ.com”「ゴルフおやじ38のゴルフ場探訪記」を投稿している宮本さんが、体験談を語っています。本人のドライバーは迫力があって、会心で250ヤードを越える実力です。でも、ときに左右へバラツいてしまうようです。
これは、センスがないのではなく、だれもが似たようなものでしょう。それで「弱点を克服するためには練習しかない」と意気込んでいます。あえて反論です。飛ばし方が問題なのではないかと・・。
この本『ドライバーの飛ばし方がわかる本』がヒントになって、好打率が上がるかもしれません。
《多くのゴルファーが信じている「飛距離を出すスイングは曲がる」というのは、実は単なる思い込みです。(20頁)》
勇気づけられる心強い言葉からスタートです。
《米PGAツアーや、欧州ツアー、それにウェブドットコムツアーで、飛ばし屋が増えた理由、それは、旧来の経験論や感覚論とは違う、科学的研究に裏打ちされた新しい「飛ばし方」が確立されてきたからにほかなりません。(38頁)》
《欧米では、10数年前から大学をはじめとする研究機関において、「バイオメカニクス(生体力学)」に基づいた様々なスポーツにおける動作解析が盛んに行われるようになり、そうした研究によって、より安全に、より効率的にスピードやパワーを発生させる、具体的な「やり方」が次々に「発見」「開発」されてきています。(38頁)》
この成果は、レーダー弾道測定器の“トラックマン”など様々な計測機器の開発によって進展しているとのことです。ゴルフは、その恩恵を受けやすい特徴的なスポーツでしょう。
《ゴルフも例外ではありません。私が、バイオメカニクス的アプローチによるスイング理論に初めて触れたのは、2010年代の初めのことで、当時は、「地面反力(グラウンド・リアクション・フォース)」という言葉も、今ほどはゴルファーに浸透していませんでした。(38頁)》
《しかし、その後すぐに、バイオメカニクス的スイングは欧米のプロツアーに急速に広まり、タイガー・ウッズの復活や、ブルックス・ケプカのようなニュースターの誕生を強力に後押しすることになるのです。(38頁)》
「地面反力」は、サイト検索で大量の情報が見つかります。英語で「Ground Reaction Force(GRF)」でも同様です。ここで後半ページでの説明を取り上げます。
《「地面反力」の基礎①「内力」と「外力」について 「内力」というのは、単純に言えば、自分自身で発生させることができる力のことで、スイングの動きで言うと主に「筋力」に由来します。それに対して、「外力」というのは、読んで字のごとく自分に対して「外」から働く力のことで、「重力」や「遠心力」などがその代表例ですが、「地面反力」もこちらに含まれます。(90頁)》
聞き慣れない用語が出てきて戸惑ってしまいます。次の具体例を見てみます。
《壁を手で押すと、自分が押している力の分だけ壁から押し返されます(押し返されないとすれば、壁が動いてしまう)。壁を押す力が「内力」で、壁から押し返される力が「外力」です。(90頁)》
《上手く壁に力をかければ、その反動で自分自身を後ろに動かすことができます。これが「内力」+「外力」による運動のイメージです。「地面反力」を使ってスイングするということは、これと同じことを地面を使って行うということになります。(90頁)》
さらに説明が続きます。
《地面反力の基礎②「外力」を使うから体が無理なく飛ばせる 地面反力というのは、日常生活の中で私たちが普通に使っている力なのです。(92頁)》
《例えば、「歩く」という動作にも地面反力が使われています。踏み出した足が、地面反力によって押し返されるからこそ、それを軸として反対側の足を前に出すことができるのです。仮に、地面が沼地だとすると、踏み出した足が反力を受けられずに沈んでしまうため、次の1歩を踏み出せません。(92頁)》
《「地面反力」を使えば、今持っている筋力のままで、安全、かつ最大効率でヘッド速度を上げることができるのです。(92頁)》
この本の基調となる「地面反力」は「反発力」の活用、という概要は理解できたものと思います。
《これまでは「スイングプレーン」が多くのコーチにとって最優先事項でしたが、現代はそれが「地面反力」に置き換わり、どうしたら「地面反力」をもっと効率よく使えるかを、みんなが考えているということです。(42頁)》
ベン・ホーガンの提唱した「スイングプレーン」の概念が展開し、解釈が変化しつつあるということでしょうか。
《インパクトでかかとが浮き上がるのは今では「普通」の動き ジャスティン・トーマスのように、インパクトで両ひざを伸ばし、かかとを浮き上がらせて打つのは、かつては「好ましくないスイング」のひとつと考えられていたが、現代では、地面反力を使って飛ばすために、むしろ「必須」の動きとされている。地面反力をいかに使うかということが、現代スイングの最優先事項なのだ。(43頁)》
プロの技は別格という前提ですが、実例紹介は説得力があります。そしてもう一例です。
《飛ばし屋の実例「1」バッバ・ワトソンはなぜ飛ぶのか? ワトソンのスイングの特徴として、体が左右に倒れる方向の運動(前後軸回転)が非常に速い点が挙げられます。この動きを作り出すのが、ダウンスイングでの右足(ワトソンはレフティのため通常の左足)への強烈な加重と、その後に続く過剰なまでの抜重です。(58頁)》
「抜重(ばつじゅう)」とは「力を抜くこと」、「加えた力を抜く」と言ったほうが理解しやすいでしょう。スイングをじゃまする力がなくなって、正しい軌道上でヘッドスピードが上がるということです。
《地面を踏みしめる力が強いほど、強い「地面反力」を得られますが、ずっと踏みしめたままだと、反力がスイングに生かされません。ワトソンは、踏み込んでから伸び上がる(抜重)タイミングが絶妙で、しかも確実に反力を使い切っているので「飛ぶ」わけです。(58頁)》
ここでのポイントは次でしょう。
《「地面反力」が最大になる瞬間はいつ? ブルックス・ケプカや、レクシー・トンプソンのスイングが「地面反力」を使ったスイングだと説明されると、インパクトで「ジャンプ」することが、地面反力の使い方だと勘違いしてしまう人が多いようです。(110頁)》
《地面からジャンプするには、飛び上がる瞬間ではなく、その前の段階で強く地面を「プッシュ」することが大事なのです。(110頁)》
これらをいきなり試して、できるものではないでしょう。しかし、こういう技術があることを知るだけでも、ゴルフの見方が深まりそうです。さて、次にアマチュアの技術分析です。
《アマチュアの飛距離が伸びない理由①手打ち そもそもプロとアマチュアの飛距離には大きな差がありますが、この差を生み出している最大の要因は、プロが下半身を含めた全身の力を効率よく利用して打っているのに対して、アマチュアのほとんどが、ほぼ「手」だけの力に頼って飛ばそうとしていることにあります。(72頁)》
《こうした「手打ち」の人の場合、スイングのスタート時と切り返しで、下半身がほとんど動かず、まず「手」が動いてしまいます。とくに、切り返しで手を先に動かしてしまうと、左サイドへの加重(踏み込み)が起こらず、「地面反力」を体を右に倒す方向の回転に変換して(前後軸回転)ヘッドを加速させることができずに、ほぼ上半身の筋肉だけでクラブを振らざるを得なくなります。(72頁)》
かといって、むやみに下半身が動けばいいというのものでもなさそうです。
《また、手で下してしまうと、高確率でアウトサイドイン軌道になるので、真っすぐ飛ばすのが難しくなります。(72頁)》
《切り返しで下半身から動き出すには、それ以前から動作の意識が常に下半身にあることが重要です。プロがごく自然に下半身から切り返せるのは、テークバックの時点で両足の力を使って上げていくので、意識が常に下半身にあるからと言えます。(72頁)》
いずれにしても、「手の意識を薄め、下半身始動」の動きを忘れないということでしょうか。
《アマチュアの飛距離が伸びない理由②軌道のズレ アマチュアでも、1発だけなら250ヤード以上、人によっては280ヤード以上飛ばせる人はいます。しかし、「平均飛距離」となると、途端に数字は下がります。つまり、ナイスショットで250ヤード飛ぶこともある一方で、大きく左右に曲げて180ヤードしか飛ばないことも多いというわけです。(74頁)》
これは耳が痛い警告です。冒頭の宮本さんの悩みもこれにあたりそうです。空中を200メートル以上もボールを飛ばせる快感はゴルフの魅力です。一日一打でもドライバーがよければ満足ということは、長年にわたり経験したものです。
《アマチュアの多くは、切り返しで手に力を入れてしまうので、手が前に出て、振り出しの位置がアウトサイドになっています。切り返しでは、下半身から先に動かして手(腕)を受動的に動かすようにすると、振り出しの位置が適正になり、ストレートボールが出やすくなります。(74頁)》
なるほど、まずは頭では理解できたといえます。ただし、実行は別がゴルフの難しさです。それでは、次に“難題を克服する喜び”に向かいます。
《アマチュアの飛距離が伸びない理由③打点のブレ ドライバーの場合、一般的に芯を「1センチ」外すごとに、飛距離が「10パーセント」落ちると言われています。最大飛距離200ヤードの人で考えると、芯を1センチ外しただけで、20ヤードも飛距離が落ちる計算になります。(76頁)》
これは具合的な事例とアドバイスです。女子プロのヘッドスピードが40m毎秒で、男子アマチュアと変わらないのに、飛距離は断然上回ることがほとんどです。それは、芯に当たる確率で、どうするかは次です。
《芯を外してしまう原因は、やはりクラブを手で操作してしまうことにあります。また、「当てよう」という気持ちが強いと無意識に体がボールに近づいていくため、ひじが曲がって「ひじ引け」の状態になりやすくなります。(76頁)》
《下半身からダウンスイングをスタートさせて、動きの連鎖の結果として最後に腕が振られる状態になると、クラブが常に一定の軌道で振り下ろされるため、芯に当たる確率が高まります。そうなると、インパクトを意識せず思い切って振りきれるので、ヘッド速度が上がるという好循環もできるでしょう。(76頁)》
この説明だけからは、「よしやってみよう!」という気になります。
《「地面反力」の3つの方向とは 地面反力によって生み出される、スイングの「力」には、大別して、体の縦回転に変換される「バーチカルフォース(Vertical Force)」、横回転に変換される「ホリゾンタルフォース(Horizontal Force)」、それに、横方向の動きに変換される「リニアフォース(Linear Force)」の3つがあります。(113頁)》
この説明には、それぞれどのプロがどれに該当するかが示されています。
《右手の握り方がリリースのタイミングを決める 右手のグリップを上からかぶせるように握る「ウイークグリップ」の人は、リリースのタイミングが早くなる傾向があります。反対に、右手のグリップを下からあてがうように握る「ストロンググリップ」(または、「フックグリップ」)の人は、リリースのタイミングが遅くなります。(138頁)》
なるほど・・・ウィークかストロングのどちらがいいかではなく、それぞれの特徴があるという説明は納得できるものです。
《このグリップのリリースタイミングの相関関係は、「自然に振ればそうなる」という性質のものです。試しに右手のグリップの握り方を変えてクラブを振ってみてください。右手をウィークに握るほど、リリースが早くなり(逆に言うと、タメを作るのが難しくなり)、フェースローテーションを強く使う振り方になる(ストロングだとフェースローテーションも少なくなる)のがわかると思います。(138頁)》
「タメ」の効用があちこちで語られますが、なるほど右手のグリップによって左右されるということが明快な分析です。
「地面反力」と展開例や現在のプロゴルファーが応用していることが、説明されてきました。格別の筋肉が必要ではなく、歩行の応用であることも理解できます。
ゴルフの技は、「出来てしまえば簡単」でしょうが、かかとを上げない「ベタ足」がスイング安定の基本だと思い込んでいる向きには、長い道のりに思えます。
それでも、世界のトッププロたちが地面反力を応用して飛ばしまくっている事実は、“ゴルフ初心者向けテキスト”の必須アイテムになるかもしれません。*** 文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)
新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)
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- ゴルフは本でうまくなるか〈2〉2022年4月25日
- ゴルフは本でうまくなるか〈3〉2022年5月9日
- ゴルフは本でうまくなるか〈4〉2022年5月23日
- ゴルフは本でうまくなるか〈5〉2022年6月6日
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- ゴルフは本でうまくなるか〈17〉(2022年11月21日)
- ゴルフは本でうまくなるか〈18〉(2022年12月5日)
- ゴルフは本でうまくなるか 〈1ー18話ダイジェスト版〉
- ゴルフは本でうまくなるか〈19〉(2023年1月2日)
- ゴルフは本でうまくなるか〈20〉(2023年1月16日)
- ゴルフは本でうまくなるか〈21〉(2023年1月30日)
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- ゴルフは本でうまくなるか〈19ー27話ダイジェスト版〉
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- ゴルフは本でうまくなるか〈29〉(2023年6月5日)