ゴルフは本でうまくなるか〈14〉2022年10月10日

ゴルフは本でうまくなるか〈14〉

『運を味方にする「偶然」の科学』 バーバラ・ブラッチュリー 著 栗木さつき 訳 

東洋経済新報社(2022年刊)

ゴルフは、経験に裏打ちされた技術が第一という考えに、異論はないといえるでしょう。しかし同時に、「運にも左右されている」と感じざるを得ないこともあります。これは、ラッキーでもあり、不運のときもあります。

本の帯びには次があります。《「運のよさ」は学習できる》《不確実性に満ちたこの世界を生き抜くための、科学が教える「運」の高め方。》

「不確実性に満ちた“ゴルフ・ライフ”を生き抜くため」、と読み替える価値があるのか、読み進めます。

《アスリートはプロ・アマを問わず、お守りを身につけたり、コート、フィールド、グリーンでの幸運を願って儀式をおこなったりしている。プロ選手の選手生命は短いうえ、リスク、不確実性、ストレスに満ちている。その結果、よいプレーをするためなら、不合理なふるまいも含め、できることはなんでもしようという意識が生じるのだ。(113頁)》

この話しで連想するのは、ゴルフでの白ティーはOB杭をイメージするので使わないという人がいることです。一方で、白いボールとマッチすると考える人もいるようです。

《こうしたトップアスリートのあいだでは、迷信は広く信じられていて、選手はさまざまな験かつぎの例を報告した。ホームゲーム前の朝食には、パンケーキをきっかり4枚食べる、フィールドの特定の場所にチューインガムを貼りつけておく、試合前に一度は数字の13を見るようにする、などだ。(中略)なんらかの儀式を行えば緊張と不安が軽減し、アスリートの気持ちが上向くのだ。(131頁)》

これは、強く意識しているかどうかですが、だれもが何らかの「儀式」を行っているでしょう。ドライバーのカバーに動物キャラクターを使って、脇に置いておくのも儀式的です。

《儀式やお守りでパフォーマンスは向上する(134頁)》について、この仮説を検証するために、科学者たちはいくつかの実験を行ったとのことです。

《第一の実験では、ふたつのグループの学生(ゴルファーはいない)に、ゴルフボールのパッティングをしてほしいと頼んだ。(134ー135頁)》

《ひとつのグループはただゴルフボールを渡され、「がんばって」と言われた。もうひとつのグループはゴルフボールを渡される際、「このボールはラッキーボールで、みんな成功したのよ」と言われた――そのボールには幸運が宿っていると吹き込まれたのだ。すると、いわゆるラッキーボールを渡された学生たちは、ボールについてなにも言われていない学生たちよりも、パッティングのスコアがよかった。(135頁)》

この実験成果を読んだあとに、「これはラッキーボールだ!」と念じて、パターをやってみました。絶対的なことは言えませんが、回数を重ねていけば、心理的なプラス効果が期待できそうです。

《〝幸運を信じる迷信を活性化させると、課題をこなす能力が自分にはあると思えるようになり、パフォーマンスが向上する〟と述べている。(136頁)》

古今東西でツキであるとか運は、長く語られてきました。ゴルフでは特にこれにまつわる話がたくさんあります。

《昔から、運を信じる人は「物事をコントロールする力は自分の外にある」と考えてきた。つまり、「自分ではコントロールできない予期せぬこと」が起こり、それが安定していない場合、その説明として運を利用してきたのである。(167頁)》

《この説から言えば、運を信じていない人のほうが合理的で、確率を計算にいれ、予期せぬ出来事の原因として自分の能力も考慮していることになる。一般的に心理学の世界では昔から、運を信じない人のほうが信じる人よりも心理学的には健全だと思われてきた。(167頁)》

通常の社会生活では、目の前の出来事を現実的に見ているので、そのたびに運と結び付けることはありませんが、次が注目です。

《「自分は幸運だ」と思っている人は、予測できない、偶然起こった問題に直面し、その問題を克服しなければならない場合でも「自分は幸運なのだから」と信じることで、希望と自身をもっているらしい。(167頁)》

これがプラス思考の原点なのかもしれません。「自分はついてる」と唱えると、そうなってくるといわれます。現実に、頭のなかでこういった言葉を唱えたり、念じると効果があるように感じるのです。

《たとえ運は偶然に左右され、自分のコントロールが及ばないものだと認識していても、「自分は運がいい」と考える人は偶然起こる出来事にも耐えやすくなり、予測できない出来事にどう手を打つべきかという答えを割りだしやすい。この説から見れば「自分は幸運だ」と思っている人は「自分は運が悪い」と思っている人よりも精神的状態が健全で、ストレスに対処する能力が高いことになる。(167頁)》

ここで述べられていることは、ゴルフでの応用必須といえそうです。ゴルフでは、「偶然起こる出来事」の連続であり、そのたびに一喜一憂してしまいます。それでも「試練こそはゴルフのだいご味」と強がりながら、「自分は幸運だ」と唱えればよいということです。ストレスへの対抗が強くなるのは、ゴルフばかりではなく、社会生活でも得策です。

《人間と動物の思考法の違い(206頁)》で、アメリカの進化生物学者マーク・ハウザーは、フューマニクネスという造語で人間特有の4つの認知機能を説明しています。次はその概要です。

第一は、アイディア、言葉、イメージ、行為などを無限に組み合わせ、新奇で新たなかたちにまとめる能力。第二は、単なるアイディアをでたらめに組み合わせる能力。第三は、思考やアイディアをあらわすためのメンタルシンボルの利用。第四は、抽象的に考える能力。

ゴルフでよく言われる「タラ・レバ」は、この人間独自の能力があるからと理解できます。「もしあのトリプルがなかったら・・」、「あの枝に触れなかったら・・」など、希望的なことを想像し、言い訳にしながらも“ゴルフ的なこと”を楽しんでいるようです。動物のことは次のように説明しています。

《ほかの動物には感覚によって直接認識される世界と精神との結びつきを断ち切ることができないため、抽象的な未知の未来へと思いを馳せたり、ほかの惑星の生命体を想像したり、来世の存在や自分の存在意識について考えたりすることができない。それでも動物は、自分の経験から学ぶことはできるし、記憶を利用して次になにをすべきかという計画を立てることもできると、ハウザーは言う。(208頁)》

この説から、人は考えることが多く、動物は生きるためにストレートに物事に対処しているといえそうです。ゴルフでは、考えすぎが時にマイナスとなります。すると、“動物的な人”は、単純明快な考えが得意で、ゴルフに向いているといえるのかもしれません。

さて、イギリスの心理学者リチャード・ワイズマン教授は、運に関する研究の専門家です。彼が開発した「幸運のワークショップ」の4つの法則で、学生たちに運を鍛えさせ、大きな成功をおさめたそうです。

《1.運がいい人は、日常生活でチャンスをつくりだし、チャンスに気づき(注意を払い)、チャンスに基づいて行動する。実際、運が悪い人よりも、チャンスに気づきやすい。(220頁)》

《2.運がいい人は、直観や本能を信じて、「本能に従って行動する」。世界に対して直観をはたらかせるべきだと考え、そうした直観の声によく耳を傾ける。(220-221頁)》

《3.運がいい人は、「自分は成功するし、目標を達成する」と思っている。そして、そのように自分の未来に期待することで、運に恵まれやすくしている。(221頁)》

《4.運のいい人が不運に見舞われるとーー望まないこと、恐ろしいことが起こるとーー自分のミスから学び、その経験を未来への期待に組み込む。そして、こんどはミスを回避してみせるという期待を利用して、不運を幸運に変えることができる。(221頁)》

これらはゴルフのために書かれた法則ではありませんが、そのまま当てはまりそうです。

《直観、つまり「本能的な勘」は、ほぼ途切れずに脳内に流れている感覚のパターンを把握しようとする能力だ。私たちはこの直感を利用して、つねに判断をくだしている。(228頁)》

この一方で、熟考し、慎重に考え、知識を動員して決断することも一般的です。これは「努力を要する意識」と呼ばれるそうです。そして、直観で判断する方法は、熟考した決断と同じように役立つとしています。

「根拠のない自信」という表現を見かけます。この説明から、“直感からの自信”と言い換えられそうです。残り50ヤードを低く出して転がすか、上げて止めたいかは、過去実績とその日の調子からの直感としかいいようがありません。それでも、ゴルフでは成功が保証されないので、壁を越えようとするエネルギーが生まれるのかもしれません。

《運がよくても悪くても、その物事が終わってからでないと、結果はわからない。幸運だったのか不運だったのかが決まるのは、あなたが行動を起こしたあとなのだ。万事うまくいって、あなたが望みのものを手に入れたのであれば、万歳!幸運だった!でも、うまくいかなかったのであれば、ミスから学び、また挑戦すればいい。(248頁)》

最後に、中国の老子「道(タオ)」に触れながら、「人間万事塞翁が馬」の話が引用されています。《幸運か、不運か。それは分らんよ(253頁)》

ゴルフでの運は、一打ごとにつきまとうかのようです。林に入ったと思いきや、木や枝に当たってコースど真ん中に落ちた!「ラッキー!」と小躍りしながら、次のショットが快心の当たりでフェアウェイ周辺へ。しかし、ボールが見当たらない・・・。

第1章の「運とはなにか」では、エミリー・ディキンソンの詞を引用しています。《運は偶然、もたらされるものではなく 労苦の産物だ 幸運の女神の微笑みは 努力してようやく獲得できるもの(1頁)》

「運は努力の成果」という現実的なまとめとなりました。***

文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)

新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)

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