
『ユーモアは最強の武器である: スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』
ジェニファー・アーカー 著/ナオミ・バグドナス 著/神崎朗子 訳 東洋経済新報社(2022年刊)
英国の紳士、そして淑女には洒落たジョークが似合います。すると、ユーモアあふれる知的なジョークは、英国人ゴルファーの“必需品”であると推測できます。
この本『ユーモアは最強の武器である』は、ゴルフ上達に役立ちそうです。〈スコアで負けても、ジョークでは引けをとらなかった〉というのも乙なものではないでしょうか。
《僕たちはみな、人生に意義を求めている。だが仕事であれ、人生であれ、ときには深刻な問題や大変なことが起こったりもすれば、嫌気がさしたり、ストレスを感じたりすることもある。そんなときユーモアのセンスがあれば、いったん思い悩むのをやめたり、気分が軽くなったりするだけでなく__意義を感じられるようになる。(序文ii-ⅲ)》
これは、《自然ににじみ出たものでなければ、ユーモアは伝わらない》のテーマで展開する映画づくりからの話しですが、ゴルフに置き換えて読むと合点がいくことばかりです。ゴルフの局面でユーモアと言われてもすぐには応用できないでしょうが、ヒントになるかもしれません。
《ユーモアがもたらす知的な視点や共感や人間性をもって事にあたるのが、不測の事態に対処し、新たな現実に適応するためには不可欠なのだ。大切なのは言葉じゃない。行動と態度こそが物を言う。ユーモアのセンスは、私たちを人間らしくする。人と人を深く結びつけ、力を与えてくれる。ユーモアを使うのは深刻な問題を軽視するわけではなく、深刻な問題があってもなお、前進できるということなのだ。(序文ⅲーⅳ)》
ここで注視したいのは、≪ユーモアが、不測の事態に対処し、深刻な問題があってもなお、前進できる≫と強調する箇所です。ゴルフではこのようなトラブルは日常ですから、ユーモアを感じる気持ちがあれば、これを突破する手掛かりがみつかり、技術を補ってくれそうです。
《私たちも、子どものころはしょっちゅう笑っている。平均的な4歳児は1日に300回も笑うのだ(いっぽう平均的な40歳は、2~3か月で300回笑う)。やがて大人になって働き始めると、笑顔と引き換えにネクタイを締め、パンツスーツを着て、きゅうに「真面目で重要な人物」になってしまう。(31頁)》
一般社会ではこういうものでしょうが、仕事の波に呑まれて《陽気さなどすっかり失ってしまう。(中略)遊び心も抑圧される。(32頁)》もう一度、‶未来志向に違いない子どもの感覚″を取り戻すことがあってもよさそうです。それが、ゴルフの見方に新境地をもたらすような気がします。
そして、ゴルフでは次の感覚がほしいところです。《もっと自分らしく振る舞うことや、もっと人間らしいつながりだ。(33頁)》、《遊び心のある文化は、とくにチームにとってリスクの高い場面や困難なときこそ、しなやかに乗り越えるのに役立つのだ。(36頁)》《本書に登場する多くの優秀なエグゼクティブたちの成功の秘訣は、真面目さと陽気さの絶妙なバランスを取る能力にある。(37頁)》
ユーモアとはただ繰り返せばいいものではなく、バランスが大事と説いています。ゴルフ中にも押すと引くバランスは大事でしょう。
《安全性と仕事の能率には、強固な関連性がある。エイミー・エドモンドソンと同僚による研究では、心理的安全性(失敗しても罰せられたり、バカにされたりしないと思えること)によって、私たちはより柔軟で打たれ強くなったり、いっそうやる気が出たり、粘り強くなったりすることがわかった。失敗を気にしなくてもいいという安心感があると、大胆になり、大きなリスクをとる勇気が湧いてくるのだ。(93頁)》
これはゴルフの緊張場面で役立つ心理分析です。一つの考えは、初心者は、打つのが精一杯で失敗のことまで考えが及んでいないということです。もう一方の考えは、《失敗を気にしなくていいという安心感》がゴルファーの気持ちを束縛から解き放つということです。それによって、臆病風が吹き飛び、思い切りよくスイングできると解釈できます。
《ユーモアと心理的安全性のつながりは、笑いにある。笑える、と思っただけでもコルチゾール(いわゆるストレスホルモン)が39%、エピネフリン(「闘争・逃走」反応を引き出すホルモン)が70%も減少し、安心感が生まれ、心が落ち着き、ストレスが緩和されることが明らかになっている。(94頁)》
ゴルフの最中は、周辺環境にどう適応しようかと構える心技体や身体的なことが優先されがちですが、体内のホルモンが微妙に動いていることが大事な認識ポイントです。「笑える」と<思っただけで>落ち着けるということは、メリットです。
《つまり、笑うとコルチゾール値が低下し、コルチゾール値が下がれば成績がよくなるのだ。(95頁)》
笑いながらスイングをするわけにはいきませんが、ゴルフの中で笑いが有効なことが分かります。適度な緊張感を集中力に変えることができるということです。
《ユーモアは頭の体操を促進し、それまで見落としていたつながりや、パターンや、解釈に気づけるようになる。私たちの視野を広げ、心理的安全性をもたらし、創造力を発揮できる豊かな土壌を生み出すのだ。ダライ・ラマの言葉に「笑いが思考にとって効果的なのは、笑うと新しいアイデアを受け入れやすくなるからだ」という名言があるほどだ。(204頁)》
ゴルフでのボールは「あるがままに打つ」と言われ続けています。しかし、この言葉が先立ち過ぎると、何通りもあるだろう打つアイデアを逃がしかねません。「救済措置があった」と悔やむこともありそうです。ゴルフは何通りも想定できる選択肢から、ベストショットの可能性を探るゲームです。その感覚が笑いで促進されるのなら、利用したいものです。
《世界のさまざまな国や分野のリーダーたちのストーリーを紹介してきたが、そこには共通点がある。称賛に価する成功を収めた(ゆえに、おそらくエゴも強い)高名なリーダーは、きわめて深刻な状況においても陽気さを忘れず、望ましい成果をあげていることだ(257頁)》
世界の政治家たちがジョークを駆使するのは、場の雰囲気を変えて、問題解決に向かおうとするからでしょう。
《ユーモアは強大な力(スーパーパワー)だ。だが透明人間やスーパーヒューマンになる特殊な能力とは違って、誰もがひそかにもっている力なのだ。(258頁)》
これは、ゴルフにも当てはまりそうです。先ずは、自分自身にユーモアで語りかけることも一案です。「シャンクして、そしらぬ顔で、歩き出す」といった心境でしょうか。
《グーグル設立から間もなく、ペイジとブリンは毎週の終わりにTGIF(Thank Goodness It’s Friday〔やっと金曜日だ。「花の金曜日」のような意味〕)と呼ばれる1時間の会社会議を開催した。(中略)後半の30分は、質疑応答で、グーグルの従業員なら誰でも、経営陣に対して好きな質問をすることができる。(268頁)》
このTGIF会議は、ときにコメディー・ショーにそっくりだった。そして、会社のトップがリラックスしてユーモアがあって楽しくやるカルチャーが20年以上経ったいまも変わっていないそうです。一般のゴルフでは、仲間の調子が出なければ、他の面々がリラックスした雰囲気を心がけることが、大事だということです。
《即興コメディーにおいて何よりも重要なルールのひとつは、「イエス、アンド」というコンセプトだ。相方が何を言おうと(はっきりとでも、ぼんやりとでも)、こちらはつねに同意して、言葉を付け加える。(270頁)》。この具体的なやり取りが次に引用されています。
《まず出だしで私が「こんな暑いなんて、信じられへん」と言って、相方が「うん・・」としか返さなかったら、話はそこで終わってしまう。でも私が「こんなに暑いなんて、信じられへん」と言って、相方が「なめてるん?ここは地獄やで」と返す。(270頁)》
《この「イエス、アンド」で場面が展開し、ユーモアが広がっていき、相方同士の信頼感も深まっていくのだ。陽気なカルチャーを築くための確実な方法は、同僚やチームの陽気なおふざけに「イエス、アンド」で応じることだと__いみじくも『イエス、アンド(Yes, And)』とう題名の本〔邦題は『なぜ一流の経営者は即興コメディを学ぶのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)〕の著者、ケリー・レオナルドは述べている。(271頁)》
この反対が「イエス、バット」でしょう。「それができればいいですが、しかし、私には技術不足です」ということです。もし、「イエス、アンド」にすると、「それができればいいので、試してみます」となって、次へのステップに進むかもしれません。
《陽気さを育む空間をデザインすることは、組織の重要な理念を強化する上で大きな役割を果たす。IDEOはその達人で、面白くて刺激的な問いを壁に貼って、従業員たちからの回答を募集するかと思えば、トイレの便器の前にミニゴルフのパターマットを設置する〔便器に腰かけて短いパターをもち、ホールにゴルフボールを入れる〕など、オフィスじゅうにあっと驚く仕掛けが用意されている。(298頁)》IDEO:https://www.ideo.org/
これを定期的にどう掃除しているのか気になりますが、奇想天外な仕掛けで、奇想天外な考えを生み出そうとする工夫が分かります。
笑うと息を吐き出し、その反動のように大きく息を吸い込みます。一方、怒れば、息を止めがちとなり、酸素が頭に行き渡らず、判断力が鈍りやすくなりそうです。
ユーモアがかもし出す明るくやわらいだ感覚が、ゴルフに最適なアイデアをもたらすことが分かりました。ゴルフでは、難関をどう突破するかクリエイティブ思考が求められます。ゴルフでユーモアのセンスを磨けば、それが社会活動でも役立つこと請け合いです。***
文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)
新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)
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