
『スポーツする人の栄養・食事学 』樋口 満 著
集英社新書(2021年刊)
《「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言いあててみせよう」(17頁)》。フランスの法律家 で政治家のサヴァラン氏が「美味礼讃」という本に書いた言葉です。18から19世紀のことですから、先見の明があったのです。
この本「スポーツする人の栄養・食事学」では、ゴルフのスコアを左右しかねない大事な食事について学ぶことができます。
《ひと昔前まで、「力をつけたかったらごはんを食べろ」「肉さえ食べていれば筋肉はつく」「運動中は絶対に水を飲んではいけない」といったさまざまな通説がまかり通っていました。運動中の水分補給禁止にいたっては、「運動に集中していない証拠」と言わんばかりで、その根拠ははっきりせず、今となっては信じられない指導が多くのスポーツ現場で行われてきました。(11頁)》
こういった通説から、スポーツは人体の科学的な解明ではっきりと進化しています。現在のスポーツ理論が、将来、くつがえされる可能性があるということでもあります。
《私たちに求められるのは、スポーツをする人にとって食事・栄養はけっしてないがしろにしてはいけないことを常に意識することです。加えて、パフォーマンスの向上や良好なコンディションの維持のためには、なにをどのように摂取するのが効果的なのか、またその科学的根拠はなにかなど、正しい知識をしっかり身につける以外にありません。(20頁)》
飲食に関しては、「体が欲するモノが本当に体にいいモノなのか」考え直さなければいけないということです。正しい知識があれば、何年も先に大きな違いとなり得るからです。
《毎回の食事では、5つの料理区分(主食、主採、副採、牛乳・乳製品、果物)をできるだけそろえるのが望ましいのに、どれか1つ、単品で簡単に済ませてしまっては、バランスをとるとらない以前の問題です。(37頁)》
それでは、どうするかです。
《家庭内の食事でも外食でも、主食をベースにして最低でも2つ以上を組み合わせるように努めます。けっしてむずかしいことではありません。スポーツで勝ちたい、結果を出したいというのなら、当事者意識をもって、自分を甘やかさずに、面倒くさいと思わずにやり続けることです。そうすれば、必ず結果につながります。(37頁)》
ゴルフの練習を継続すると同じ要領で、体が真に必要なものを摂取するということです。
《たんぱく質には、肉や魚、卵、乳製品などに多く含まれる動物性と、豆腐や納豆などの大豆製品に多く含まれる植物性があります。動物性のほうが、この必須アミノ酸がバランスよく体内に吸収されるので、筋肉や血液のことを考えると動物性の摂取は欠かせません。(53ー54頁)》
牛乳の効能のあとに、次の説明があります。《植物性たんぱく質を多く含む大豆や大豆製品も、お米やパンと組み合わせれば、それぞれに不足している必須アミノ酸を補い合うことができます。ここで注意しなければいけないのは、動物性たんぱく質を多く含む食品は脂肪分も多いために食べ過ぎない、偏り過ぎないようにすることです。(55頁)》
イメージ的に、たんぱく質は動物性ですが、植物性たんぱく質の摂取も忘れてはいけないのです。
《余談ですが、牛や馬、カンガルーなどの草食動物は、植物(草)しか食べないのになぜ体が大きく成長し、筋肉がたくさんついているのか疑問に思われるかもしれません。(55頁)》
身近にいる猫や犬は雑食ですから、動物はみんな似たようなものではないかと考えがちです。しかし、草食動物は、独自の消化吸収のメカニズムを持っているのです。
《実は、草食動物の消化器官内には、「共生微生物」と呼ばれる細菌(バクテリア)や原虫(原生動物)が寄生していて、その働きによって動物が消化できない物質を分解したり、たんぱく質やビタミン類を合成したりして、たんぱく質を直接摂取しなくても筋肉などに必要な栄養素がつくられているのです。(55頁)》
体内の微生物が有用な働きをしていることが分かるようになりました。そのため、微生物が好む食事があるということになります。
《スポーツをする人は、とかく筋肉をきたえることに目が行きがちですが、実は、骨がこうした役割をきちんと担えるように、強い外圧がかかっても骨折しにくくなるようにしなければなりません。(中略)骨を丈夫にするとは、骨密度を高め、骨量を増やすことです。(57頁)》
《ウォーキングやジョギング、重力負荷がかかるテニス、バレーボールなどの運動刺激によって骨密度を高めるだけでなく、食事によって必要な栄養素をしっかりとることが有効です。(58頁)》
ここではゴルフに触れてはいませんが、ゴルフも骨密度を上げるに十分な負荷がかかるはずです。
《筋肉ムキムキのアスリートにならって、とにかく体脂肪を減らしてしっかり筋肉をつけることばかりに注力する人がいますが、脂肪は不要なものだとして目の敵にするのは間違いです。脂質は、量だけでなく質にも注意が必要で、特に動物性脂質の主成分である飽和脂肪酸は控えめにして、植物油や青魚から必須脂肪酸を積極的に摂取しましょう。(64ー65頁)》
飽和脂肪酸と必須脂肪酸の存在を認識し、次は酸素についてです。
《運動をして体が疲れを感じるのはエネルギーが不足したからではなく、大多数の人が、体内で活性酸素が過剰に発生して細胞が錆びてしまう、いわゆる「酸化ストレス」によって細胞本来の働きができなくなるからという説が今では有力です。(81頁)》
それでは、ゴルフ中にも出ているだろう活性酸素とか酸化ストレスとは、何なのかとなります。
《私たちは呼吸によって体内に取り込んだ酸素を利用して生命活動を維持していますが、その一部は、活性酸素に変化します。活性酸素は、体内の免疫機能や感染防御、細胞間のシグナル伝達物質として重要な役割を担っていますが、いっぽうで悪さもします。(81頁)》
《通常、体内には、活性酸素の産生を抑制したり、生じたダメージの修復や再生を促したりする生体防衛システム「抗酸化機構」が備わっていますが、それを上回って活性酸素が過剰に産生されてしまうと細胞を傷つけ、老化を促進し、がん、心血管疾患、生活習慣病などさまざまな疾患を招いてしまうのです。このように、抗酸化機構のバランスが崩れてしまった状態を酸化ストレスといいます。(81ー82頁)》
これらの要因には、《過度の運動による酸素の大量消費やストレスが考えられます。(82頁)》とあります。一般的には、ゴルフは過度なレベルにはありませんが、ストレスは影響がありそうです。
《適度な運動は筋肉内の抗酸化酵素を増やす作用がありますが、食事による抗酸化ビタミンの摂取と相まってこそ、筋肉をはじめとした体へのダメージを防ぐことができるのです。(82頁)》
この説明から、〝ゴルフ=適度な運動=抗酸化酵素増加〟の関係が成り立ち、食事に配慮すると、社会生活の活性化が期待できます。
なお、栄養素の足りない部分はサプリメントで補えるといいますが、これも適切な摂取が必要との注意があります。
《サプリメントに頼り過ぎていると、とるのをやめたときが怖い、ほかの食事が十分にとれなくなるといったように、一生サプリメントに頼らなければならなくなってしまう依存症ともいえる症状が、特に若いアスリートに見受けられます。(113ー114頁)》
《運動を始めると、体内で熱が産生されはじめます。体温が1℃上昇すると内蔵機能は10%低下するといわれ、大量に汗をかいて熱を外へ放射しながら体温上昇を抑制して、体を元の状態に戻そうとします。(120頁)》
炎天下でのゴルフでは、体温上昇で内蔵の機能が低下しやすく、判断力や忍耐力も低下することが注意ポイントとなりそうです。
《脳が渇きをキャッチするには時間差があるため、「のどが渇いた」と感じたときにはすでに脱水がはじまっていて、心拍数が増え、筋肉からも水分が奪われて運動能力が低下してしまいます。(120頁)》
小まめな水分補給は、ゴルフでも必須ということです。
《体に含まれる水は真水ではありません。汗をかくとしょっぱい味がするのは、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、そして塩素など、イオン(電解質)と呼ばれる正負の電荷をもつ元素を含んでいるからです。このイオンの微妙なバランスによって体の水分(体液)が保たれています。(123頁)》
汗にこれほどの物質が含まれていることを知ると、これらを補わなければいけないと考えるようになります。
《一度に大量のドリンクを飲んでしまい体内の水分量が過剰になってしまうと、イオンの微妙なバランスが崩れ、命に関わるさまざまな症状が出る「水中毒(みずちゅうどく)」の状態を招いてしまいます。(123頁)》
適度さの難しさです。飲食物の摂取とは、ゴルフスイングの適度さに通じるものがありそうで興味は尽きません。
《水分はたくさんとっているが、だるさや体調不良で水中毒かもしれないと疑ったら、まずは水分補給量を減らしてみましょう。さらには、真水の代わりに体液に近いスポーツドリンク(ハイポトニック飲料)や経口補水液を飲めば、水中毒を起こさないだけのナトリウムを摂取できます。(124頁)》
自分にあったスポーツドリンクの準備が必要なのです。梅干しや塩のタブレットなども試しておくとよさそうです。
《世界トップクラスのプロテニス選手が、コートチェンジの時にベンチでバナナを口にしている姿をよく目にします。テニス以外に、プロ野球選手やプロゴルファー、自転車ロード選手にもいるようです。(162頁)》
《数時間という長丁場の競技で激しい動きを続ける選手が、試合中に捕食としてバナナを食べるのは意味のあることなのです。(163頁)》
バナナは消化がよく、エネルギー源の糖質(炭水化物)、筋肉けいれん予防のカリウム、補酵素として重要な働きを助けるビタミンB6などが豊富とのことです。
ゴルフ中のエネルギー消費は、少しずつ確実なペースですから、後半にチョコレートなど甘い物を食べたくなるのも必然なのでしょう。今度のコンペでは、バナナを忍ばせておくことにします。
《運動で汗を流した後のビールの味は、特別おいしく感じるものです。中には、その醍醐味を味わいたいがためにスポーツをすると公言する人もいて、酒好きにとってこの瞬間はどうにもたまらないようです。しかし、スポーツをする人にとって、飲酒はいくつかの理由で注意が必要です。(164頁)》
《アルコールには、ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸、亜鉛など、スポーツをする人には欠かせないビタミン・ミネラルの吸収を妨げる働きがあり、栄養素の吸収阻害につながります。(165頁)》
こういった注意事項を知った上で、次の心得が示されます。
《運動後は体内の水分が不足しがちで、そのまま飲酒をはじめてトイレの回数が増えれば、さらに脱水が進んでしまいます。飲酒では水分不足を解消できませんので、飲酒の前にはアルコール以外の水分、ビタミンB1とミネラルの補給を心がけましょう。(169頁)》
《運動・スポーツとの関連で、中高年が特に意識したい栄養素は、とりすぎに注意が必要なエネルギー源である糖質と脂質、不足が心配なたんぱく質、ビタミンDです。(224頁)》。ビタミンDは、ほとんどの魚類や干しシイタケなどのきのこ類にも含まれていて、次も注目です。
《日光を浴びることで体内(皮膚)で合成されます。季節や地域によって異なりますが、1週間に2日ほど、長くても30分程度でかまいませんから、顔・腕・足先など体の一部に浴びるだけでも効果があります。(227頁)》
だからといって日光の浴びすぎは皮膚の老化を早めるということになってしまいます。日頃から少しずつ日光を浴びることを、心がけることにしましょう。
《「アスリート(athlete)」とは、「あるスポーツ種目を専門に行い、競技大会に出場して結果を出すため、身体的な強さや俊敏性、スタミナといった競技能力を向上させるためにトレーニングを積み、その技を習熟しているスポーツ選手」を指します。(10頁)》
アマチュアゴルファーは〈スポーツ愛好家〉と定義されます。しかし、コンペに出るために練習し、個人レベルではあっても技を習熟します。ですから、アマチュアといえど、〝アスリート〟の称号が似合うはずです。
生命活動に必要な栄養素は約50種類あって、とるべき食事や栄養のタイミングはすべて異なるようです。「スポーツをする人の栄養・食事学」が、ゴルフの身体的向上のヒントになれば幸いです。***
文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)
新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)
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