『ゴルフ 読むだけで迷いなく打てるパッティングの極意』永井延宏 著 青春出版社(2016年刊)
プロローグに〝挑発的〟と思えるコメントがあります。《残念なことにアマチュアゴルファーが考えるパッティングというと、「振り子のようにストロークして、ヘッドを真っ直ぐ動かす」ということにとらわれています。もしくは、それしか知らないといったらほうが正しいかもしれません。(8頁)》
副題は、「理論派プロが教えるパッティングの力学」と「カップインのイメージが頭の中でどんどん強くなる」。何かつかむものがありそうです。
《オーバースピンをかけるのに技術はいらない:プロや上級者など、パッティングの上手い人のボールは「球足が伸びる」「転がりがいい」とよくいわれます。その理由は、打ち出しとほぼ同時にボールに順回転、つまりオーバースピンがかかるからというのが定説です。(中略) 実際はパターには一般的に3度、もしくは4度程度のロフト角があるため、インパクト後、ボールには必ず水平よりやや上向きの力がかかります。そしてロフト角があるために、通常のショットでいう「キャリー」(パッティングでは「スキッド」と呼ばれる)が必ず発生します。(25ー26頁)》
「スキッド」は聞き慣れませんが、覚えておくとゴルフ談義に使えそうです。一般に「スキッドが少ないほどパティングが上手い」ということです。
《確かに、球足が伸びる、転がりの良いボールを打つには、オーバースピンが不可欠です。しかし、スキッドの時間をできるだけ短くして、打ち出しとほぼ同時にボールへオーバースピンをかけるのは、それほど難しくありません。(26ー27頁)》
100を切れないゴルファーでもできるといいます。
《その方法はハンドファーストでインパクトし、ロフトを殺してしまうというだけのこと。ドライバーやアイアンをハンドファーストで打つと、必然的にロフトが立つためキャリーの少ない低弾道の球になりますが、パターでも同じことが実現できます。ロフトが立った状態で打つと、水平より下向きのベクトルが働くため、ボールがグリーン面方向に打ち込まれます。そして、それによるリバウンド作用で、すぐにオーバースピンがかかったボールが打てるのです。(27ー29頁)》
オーバースピンをかけるには、〝ボールを打ち上げる〟ものと思い込んでいました。それが「ハンドファーストにしてロフトを立てる」ということなら、今からでも実践できそうです。
一方、《オーバースピンが良いパットだという誤解(29頁)》では、球足が伸びるボール、転がりの良いボールを打つ要素としてオーバースピンは欠かせないが、その量が多すぎると、「・イメージしたカーブ(曲がるライン)が描けない ・弱く打っても思った以上に転がってしまい、結果オーバーする」などの難点があると指摘しています。
《重いグリーンでしか通用しないオーバースピン:一方で、実はオーバースピンが多くなることのメリットも存在します。・重いグリーンや遅いグリーンでも転がりの良いボールが打てる ・芝目の強いグリーンでも、芝目の影響を受けにくい このようにオーバースピンのメリットはグリーンの状態によるところが大きいのです。(33頁)》
遅いグリーンでは「強いオーバースピン(順回転)が有効」で、速いグリーンでは控えめにコントロールするということになります。
《1950年代のアメリカは今よりずっとグリーンが重く、気温の高い地域では芝目が強い芝を使っていました。このようなグリーンで転がりの良いボールを打つには、オーバースピンの量を増やす必要がありました。そのため、パターヘッドを上から入れて(アイアンでいうダウンブローに近いインパクトをして)、ボールを一度地面にぶつけ、その反動でボールがスキップするように出る打ち方をして、オーバースピンをかけていたのです。(33-34頁)》
ボールが芝に沈むグリーン周りでは、〝ダウンブローのパッティング〟が使えそうです。
《高速グリーンには多くのロフト角が必要:オーバースピンをより多くかけるという打ち方に大きな変化が訪れたのは80年代。コース設計家のピート・ダイが手がけた、強烈にうねるポテトチップ形状の速いグリーンを持つコースが登場してからです。このように大きなアンジュレーションのついた速いグリーンでは、転がりの良いボールを打つことよりも、いかにラインに乗せるか、狙ったところにいかに止めるかがパッティングの最重要ポイントとなり、それに伴って打ち方もパターデザインも変化してきました。(35-36頁)》
パターと芝の関係からの歴史です。速いグリーンは管理の手間がかかるけど、パターを変化させ面白さを増したということになります。
《アマチュアが高速グリーンで失敗する理由:アマチュアゴルファーは高速グリーンでハンドファーストのインパクトになりやすい傾向があります。アマチュアゴルファーにとって、高速グリーンで緩まないインパクトをするのはとても難しいこと。そのため、高速グリーンになるとソフトなタッチのインパクトをイメージします。すると、テークバックもゆっくりとした、ルーズで大きなものになりがち。(57頁)》
それでどうなるかというと次です。
《そして、手を前に出しながらヘッドを減速させて距離を合わせにいくので、当然、インパクトではハンドファーストになってしまいます。すると、どんなに弱くボールをヒットしても、ヘッドが上から入るうえにハンドファーストなインパクトになるので、ロフトが立ってしまいます。これではボールにオーバースピンが強くかかり、やはりノーブレーキで思ったところに止まってくれません。(57頁)》
下りや速いグリーンで手元が狂うのは日常です。失敗したイメージが湧き上がってくることもありますが、弱く打とうとしてロフトが立ってしまうことが原因とは以外です。
《ロフトが立ったインパクトのデメリットは、これだけではありません。パターに限らず、ロフト角が存在するすべてのゴルフクラブは、ハンドファーストになってシャフトが前方に傾くと、ロフトが立つだけでなく〝フェース面が右を向く〟という性質をもっています。そのため、ボールは飛球線より右に打ち出され、さらにロフトが立っていることで地面方向に押しつけられる力も加わります。(57頁)》
ハンドファーストになる原因は、「テークバック初期にヘッドを持ち上げてしまう」ためで、これを直すには、「ヘッドを低く引き、フォローも低く出す」とあります。ヘッドが低い位置で動けば、ロフト角をキープしたままインパクトができると教えています。
《ビリヤード型ストロークは体重の入れ替えで行う:いわゆる「振り子型ストローク」ではどうしてもインパクトゾーンが短い「点」になってしまうのに対して、ビリヤード型ストロークでは、キープロフト・ゾーンでヘッドが平行移動に近い動きをするため、インパクトゾーンが長くなります。また、ボールを打ち出す方向とヘッドが動く方向が同一線上に重なるため、力学的には完全衝突型のストロークともいえるのです。(95頁)》
ここでの「キープロフト」は、「パターのロフトをキープする」意味ですが、自動車の〝キープレフト〟と似ているので注意が必要です。それでどうやるかです。
《キューでボールをつくようなパッティングストロークをするには、カラダを不動にして支点をつくってしまっては不可能。体重移動というと大袈裟ですが、カラダをターゲットラインと平行にスライドさせて重心の移動を使う必要があります。もちろん、これは誰が見てもあきらかに「動いている」というほどの大きなモーションではありません。プロは「カラダの中を動かす」と表現することがありますが、その感覚がパターでのボディモーションの存在を表しています。(96頁)》
《そのカラダの中での重心移動が「入れ替え」ですが、簡単にいうと腕は不動でカラダを動かして打つということです。まず、パターを持って脇を締め、腕とカラダをピッタリと密着させます。クラブを持つというよりは、万力で挟んでカラダに固定するイメージです。(97頁)
これは実際にパターを持ってやってみると体感的な理解が進みます。
《左右の足に均等に体重を配分してアドレスしたら、腕や肩でストロークするのではなく、ヒザと骨盤を右にスライドさせてパターヘッドとカラダの動きをシンクロさせながらテークバックします。そのとき、頭の位置も一緒に右へスライドすると完全にスウェイしてしまいますから、頭の位置は左側に傾けてバランスをとります。(97頁)》
これはパッティングの教則ですが、普通のアイアンショットにも応用できそうです。
《イメージ的には、パターヘッド(頭)と自分のヘッド(頭)が、左右で入れ替わる動きをします。自分の頭を支点にしたり、目線を動かしたりすることにとらわれてはいけません。自分の頭を、単なる重さの塊として捉えてみてください。自分の頭の重さがパターのヘッドに対して逆振り子の働きをしているわけです。(98頁)》
切り返してインパクト、フォロースルーにかけては、まったく逆の動作を行うということです。これは「リバース・ピボット(逆ピボット)」と呼ばれ、「ギッタンバッコン」とは違うとの説明があります。この実例が次です。
《レギュラーツアーでも活躍し、また、ファッショナブルなルックスで人気が高いNプロは、入れごろ外しごろのパーパットが抜群に上手いと評判のプレーヤーです。その彼のパッティングスタイルの特徴は、ヒザのスライドを使ったストロークで、これは非常にビリヤード型に近い打ち方です。手や腕はまったくといっていいほど使わず、あきらかに目につくほどヒザ(カラダ)をスライドさせてストロークしていました。(100頁)》
〝Nプロ〟とは誰かはさておき、「ヒザをスライドさせる」というのがポイントです。
《あるとき、あまりにもイヤな距離のパットを入れまくるのに嫉妬されたのか、同じ組で回った仲間のツアープロから「ヒザが動いているのに入っちゃうんだよな」とモノマネされたそうです。本人はそのときはじめて独自のスライド型ストロークを自覚したそうで、それ以降ヒザの動きを抑えたところ、パットが不調に陥ってしまったとか。これは、プロゴルフ界ではよく知られた話です。(100頁)》
「カラダが動くとヘッドの動きがブレる」と思われがちですが、一概にそうとはいえないとのことです。ゴルフの自由な発想が楽しく、独自パッティングは大いにやってみたいものです。
《本書では、「ロフトの使い方」と、クラブ全体の重さをストロークする「ビリヤード型ストローク」を中心に、多角的にパッティングのエッセンスを紹介してきました。(184頁)》
ゴルフを始めた頃は、ドライバーの飛距離にばかり気を取られて、パター練習はほとんどしませんでした。その頃から、パターの重要性と勘所を知っていたらと思うのですが、「今からでも間に合う」と思い直すことにします。***
文/柴山茂伸(書斎のゴルフ編集部スタッフ)
新連載「ゴルフは本でうまくなるか」(隔週)
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