編集長・ホンジョーのつぶやき その2

目土の勧め

 アーノルド・パーマーの父、愛称ディーコンはペンシルベニア州ラトローブCCのコース管理者兼クラブプロだった。ディーコンは幼いパーマーにゴルフを教えた。大きな手でクラブを持ち、「いいか、クラブでボールを思い切り叩け。しっかり打って、打ったらボールを拾ってまた打つのだ」と言った。その教えを生涯守ったパーマーは地を這うような強く低い打球が持ち球だった。常にハードヒットしてピンをデッドに狙い、怒濤の「パーマーチャージ」で勝利をものにしていったのだ。

 ディーコンはボールをハードヒットすることだけでなく、マナーやルールも教え込んだ。「ゴルフは唯一と言ってもよい紳士のスポーツ、常に相手を敬い、迷惑を駆けずにプレーせよ」「ルールに則って真剣勝負することに勝利の価値がある」と言った。パーマーが全英オープンで誰も見ていないにもかかわらず、正直にボールが動いたと自己申告し、それでも初優勝を遂げた。 

 ディーコンがゴルフのマナーにおいてパーマーに口やかましく言った事柄はたくさんあるが、その1つに次のことがある。「コースでプレーしたら、プレーが終わったときにプレーを始めたときよりもコースの状態を良くしておけ」。これはフェアウェイのディボットを直し、グリーンのボールマークを直せと言うことに他ならない。若い頃のパーマーは目土袋を持ってバッグを担ぎ、ディボットを直しながらプレーした。ディーコンはコース管理者として、プレーヤーにいつも目を光らせていたし、それは息子に対しては人一倍厳しかった。

ある日のペブルビーチからの風景

 しかし、ゴルフにおいて自分が打ったショットのディボットは自分で直すことは当たり前だ。バンカーの砂も自分で均し、グリーンのボールマークも綺麗に補修するのは当然のことだ。特にキャディを付けないセルフプレーが多いアメリカでは常識だった。日本はゴルフは普及しだした当初から女性キャディがつくことが多く、こうしたことはキャディ任せであったため、コースに対するマナーは悪いままだった。とはいえ、日本も今やセルフプレーがとても多くなったわけで、プレーヤーひとりひとりがディボットを埋めたり、バンカーを均したり、ボールマークを修復しなければならない。

 とはいえ、バンカーやグリーンには気を使えても、ディボットはほったらかしているアマチュアは多いのではないか。現に私もティグラウンド意外で目土をすることは少なかった。しかし、それではパーマーの父親、ディーコンが生きていたら、こっぴどく叱られていたことだろう。

 では、どうするかだが、それは砂とスコップの入った目土袋を持ってプレーする習慣付けをするしかない。自分のショット後のディボットはもちろんのこと、人が打ったディボットも埋めていく。こうすればパーマーの父、ディーコンが言った「プレーを始める前より、終わった後のほうがコースはいい状態になっている」ことを実現できるのだ。ゴルファーである以上、プレーをさせてもらったコースに敬意を表すと共に、愛情を持つこと。それにはディボットを埋めていくしかない。ようやく私もできるようになってきた。 

 ちなみにグリーンがなかなか開かないときなど、たくさんのディボットを埋めることができる。そんな時、何だかとても良いことをしたような気持ちになる。目土の後に素晴らしいショットが打てたりすると、ゴルフの神様が見ていてくれたのかなと、思ったりするのだ。

 というわけで、このコラムを読まれた方はぜひとも目土を行っていただきたいのだ。『書斎のゴルフ』の愛読者であり、ゴルフを心底愛する磯辺公人氏は目土をしていこうと友人たちと話し合い、「目土推進協議会」なる団体までつくり、目土を実行する人を増やしている。私もその1人である。

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