プレーファーストは一番のマナー
戦後政財界で辣腕を振るった白洲次郎さんはゴルフを愛する人でもあった。軽井沢ゴルフクラブの初代理事長を務め、心底ゴルフを愛する人たちだけのプライベートリゾート倶楽部に築き上げた。
個人会員のみで法人会員は設けず、会社のコンペなどもさせなかった。いくら社会的地位が高い人でも、メンバー同伴でなければプレーすることはできなかったし、純粋にアマチュアのための倶楽部であることを提唱、プロのプレーを禁じていた。

だからといってメンバーであってもマナーを疎かにする人には容赦しなかった。クラブハウスでは帽子は脱ぐこと、テーブルの上などに置こうなら烈火の如く怒った。大声では話さない、素振りは1回だけなど、他人に迷惑をかける行為にはうるさく注意した。
最も警鐘を鳴らしたのは「プレーファースト」、早くラウンドすることをメンバーに徹底させた。白洲さんは自らカートに乗り、プレーの遅いメンバーに注意を与えていた。「白洲のパトロール」と言われ、怖れられてもいたが、実際、ゴルフを愛する人にとって、最も大切なマナーは「プレーファースト」なのである。
マイペースでゆったりとプレーを愉しみたい、急いで回ろうと早打ちしては良いショットが打てない、初心者なのだから時間がかかるのは当たり前などなど、なんで「プレーファースト」でなければいけないのかという人も多いだろう。若い人なら「意味、わかんない」と言うところだろう。
しかし、コースではどこもここも<1ラウンド2時間でのプレーを心掛けてください>、ときには<2時間15分>と細かく区切ってお願いしているコースもあるが、それだけシビアにプレー時間守って欲しいということの表れである。
それをコースの都合と思ってはいけない。なぜなら、仮に最初の組が毎ホール5分遅れたとしたら、18ホールで90分も遅れることになる。この5分遅れがもう1組あったら、ほぼその日にもう1組多く回れる時間が確保されるのだ。
つまり、プレーする人が一人ひとりプレーファーストを心掛ければ、たくさんの人がプレーできることになる。コースは自分たちだけのものではない。ひとりでも多くの人がゴルフを楽しめるように、プレーする全員が心掛けなければならないことなのである。
白洲次郎さんはプライベート倶楽部であれば、尚さらメンバーは他のメンバーのことを考えて早く回るように心掛けなければならないと考えていた。楽しいゴルフを、より楽しむためには絶対に心掛けなければならないマナーである。白洲さんからスロープレーを怒られて「雷オヤジ」とか悪口を言っていた輩は大いに反省しなければならなかったし、そういうマナーが徹底できていったからこそ、日本屈指のリゾートコースと言われたわけである。
このことは当然他のゴルフコースにも言えるわけで、多くの人がゴルフを楽しめるようにプレーファーストを心掛けなければならないのだ。
岡本綾子さんは引退後、僕たち勝って知るアマチュアたちとコンペを催してくれた。彼女はコンペ前に皆に向かって「素振りは1回ほいさっさ、ライン読むなら空気読め」と言って笑わせたが、それは決して笑い事ではない本音であったわけで、コンペに参加する全員はその言葉を噛み締めてプレーファーストに徹しなければいけなかった。私自身、今になって綾子さんの言葉を心に刻んでおかなければいけなかったと大いに反省している。
そして、綾子さんの呪文通り、プレーファーストに徹するなら、素振りは1回と心するべきだし、ラインはサッと読んでプレーしなさいということである。下手なアマチュアはプロのようにカップのあっちに行ってまで読んでも入ることなどそうはない。ボールをマークしたらそこでサッとラインを読んで、前の人がパットしたら、ボールをサッと置いてすっと打ってしまうことである。
さらにいえば、下手なアマチュアは悠々とカートに乗っている場合ではない。どんどん走ってどんどん打つべしである。初心者なら特にショットの良し悪しを考えるより、とにもかくにもボールの所に早く到着して、深呼吸を一度して、素振りを1回したら、ボールを打つことである。
なにはともあれ、「プレーファースト」である。誰よりも早くボールの所へ行き、さっさと打つことである。これこそが第一のマナーであり、最も重要なマナーなのである。良いスコアであがるよりも表彰されるべき大事なことである。